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【日曜に書く】論説委員・河村直哉 コロナ禍「心の傷を癒す」とは

見当つかぬ心的外傷

 「心の傷を癒(いや)す」とは、どういうことなのだろうか。

 新型コロナウイルス禍でどれほどの人が心に傷を負っているのか、見当もつかない。大切な人を奪われた人がいる。仕事を失った人がいる。医療関係者らへの「コロナ差別」や、家庭内暴力も指摘された。夏以降、自殺者が前年同月より多くなっているのも気になる。

 心の傷とまでいわなくても、長引く自粛や感染の不安は多くの人にストレスとなっているだろう。

 地震などの災害なら、平常な地域から物的、心的な支援を行うことができる。ところがこのウイルス禍は地域が限定されていない。日本全国どころか、世界が惨禍に見舞われている。

 電話などで悩みを打ち明けたくても、感染リスクを避けるため活動を休止せざるを得なかった相談窓口もあった。

 それでも人間は、ウイルス禍がもたらす人々の心の傷に決して無力なのではない。

NHKドラマ映画化

 心的外傷がもたらす症状によっては、精神科医や心理士など専門家の介入が必要になるだろう。けれども専門家だけが人の心の傷を癒すのではない。

 精神科医、故・安克昌(あん・かつまさ)医師について筆者は当欄で何度も触れてきた。約4年前には、必要なら何度でも彼の仕事について語ろうと書いた。安医師の生涯をモデルにした映画が来年1月下旬から公開される。

 平成7年の阪神大震災で自らも被災しながら、彼は産経新聞での連載を引き受けてくれた。災害下の心の傷に焦点を合わせた先駆的な仕事となった。

 彼とともに歩いた被災地を思い出す。電気の通っていない真っ暗な街、殺風景な仮設住宅。彼はよく静かに涙を浮かべていた。傷ついた人にどこまでも優しかった。連載に加筆して「心の傷を癒すということ」という本にし、サントリー学芸賞を受賞した。

 12年、がんのため彼は39歳で亡くなった。病が末期の状態で見つかるとなるべく入院を避け、家族をいたわって過ごした。3人目の子供が生まれた2日後、息を引き取った。

 命が尽きるまで彼がなしたのは、身ごもった妻や赤ちゃん、幼い子供を思いやることだった。何と強くて優しい生き方かと思う。

 専門家だけが人の心の傷を癒すのではないとは、安医師が訴えたことである。人を思いやることは、だれにでもできる。

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