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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】ストーブ・11月27日

 かかりつけの医院の受付で声を掛ける。マスク越しのせいか、なかなか伝わらない。

 聞き慣れないことを言うものだから、受付の人は、ビニールカーテンに耳を添わせるように近づける。私も言い方を変えればよいものを、九官鳥のように同じ言葉を繰り返す。

 「ストーブです。ストーブ」

 天井のエアコンから暖かい風は送られてくるようだが、この季節、それだけではぬくもらないのだ。例年、恋人と見つめ合うかのように、ストーブの前に陣取る。

 今月は、検査結果の分かるとき。ずっと不安で、来るのを延ばしていた。待つときの気持ちの寒さ。それに共感するように、体が冷えるのだ。自分を律する余裕がないのである。

 「ストーブは出てないんですか」

 受付の人は申し訳なさそうな顔をする。

 「まだなんですよ」

 換気のために扉も開いている。少しでも暖かく、人の少ないソファを選ぶ。

 自分のことしか考えていない自分も見える。しばらくして、スタッフが私の前を横切って隣室に入る。今度は別の人が、すすっと寄ってきてささやく。

 「ストーブ出しますね」

 えっ。私は急に恥ずかしくなる。

 ストーブのことを確認した私の口調はどうだったろう。スタッフの表情は、皆やわらかい。素直に感謝すればいい雰囲気。ストーブは私の前に優しくたたずみ、全力で温めてくれた。

 心のほうが先に温められていた私は、持ってきた読みかけの小説に、いつしか没頭していた。

 岩藤由美子 67 岡山市南区

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