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【記者発】安全脅かす危機感の薄さ 大阪社会部・山本祐太郎

積水化学工業のロゴ=大阪市北区(沢野貴信撮影)
積水化学工業のロゴ=大阪市北区(沢野貴信撮影)

 大手化学メーカー「積水化学工業」の技術情報を中国企業に漏洩(ろうえい)したとして、大阪府警が10月、不正競争防止法違反容疑で男性元社員(45)を書類送検した。漏洩したのは、積水化学が世界トップクラスのシェアを誇る「導電性微粒子」に関する情報で、日本の最先端技術が中国から狙われた格好だ。

 日本の技術が標的にされる例は古くからあるが、今回の事件で注目すべきは、中国企業が「リンクトイン」というビジネスに特化したSNSを使って元社員に近づいた点だろう。

 リンクトインは世界で6億件超の登録があり、利用者は会社名や役職などを紹介している。元社員も自身の仕事内容を公開しており、それを見た中国企業が接触し情報交換を持ちかけたという。実際、リンクトインは技術者らの交流や人材発掘の場となっており、技術情報を盗もうとする側にすれば、標的を探す格好のツールといえる。

 捜査によって、日本の技術を狙う中国が巧みに、身近なところに迫っている実態が浮き彫りとなった。だが、狙われている側の危機意識はあまりに低いのではないだろうか。

 元社員は「積水化学にない技術情報と交換し、社内での地位を高めたかった」などと情報漏洩の動機を説明。「いけないこととは分かっていた」とも供述したが、情報漏洩のメールを社内から送信するなど犯行態様からは軽率さがにじむ。

 責任は技術者個人にとどまらない。企業の中には、情報漏洩があっても取引先や消費者からの信頼失墜を懸念し、公にしないところもあるという。ただ今回、積水化学が府警に告訴したことで新たな産業スパイの手法が判明したという側面がある。一度漏洩した情報を回収するのは難しいが、被害を明らかにするのは企業の責務だ。それが実態を共有することにつながる。

 今回の情報がどう使われたかは判然としないが、日本の先端技術が流出し、軍事転用されれば日本の安全保障に大きな影響を与えかねない。国にも法整備や企業への指導など流出防止態勢を整える責任がある。

 事件は国家の安全を守る上で、さまざまな課題を突き付けたといえる。

【プロフィル】山本祐太郎

 平成16年入社。大津支局、神戸総局を経て、大阪社会部で事件・事故や行政取材などを担当。現在は大阪府警担当キャップ。

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