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【新聞に喝!】寛容の精神に宿る芸能・文化の豊かさ 美術家・森村泰昌

 韓国の人気音楽グループ「BTS(防弾少年団)」を擁する芸能事務所ビッグヒットエンターテインメントが10月に株式を上場し、株価急上昇のあと大きく下落した。暴落の理由は簡単ではなさそうだが、BTSメンバーによる朝鮮戦争をめぐる発言が影を落としているようである。中国当局や中国のネット民によるクレームがあり、サムスン電子や現代自動車も、BTSが登場する中国内における広告の自粛に踏み切った。

 エンタメ業界への政治の介入はBTSに限らない。中国の人気女優、范氷氷(ファン・ビンビン)さんは一昨年、多額の脱税容疑で取り締まりの対象となり、しばらく姿を見せなかったが、来年公開予定のハリウッド映画「The 355」で女優業を再開させた。ところがその広告ポスターにおける中国国旗の扱い方に対して、主に中国のネット民がクレームをつけた。

 あるいは台湾出身の歌手、チェロ奏者で女優の欧陽娜娜(オーヤン・ナナ)さんは日本で活躍した歌手、欧陽菲菲(オーヤン・フィーフィー)さんの姪(めい)で今や中国全土で人気のスターだが、最近は中国寄りの言動も目立つ。中国は圧倒的な巨大マーケットである。サクセスストーリーを夢見る今年20歳のアイドルが、自分を大歓迎してくれる大国に出合えば、その国が好きになっていっても、それは無理からぬことであろう。

 しかし若いアイドルたちを、たとえそれが結果的にであったにせよ、政治の具にするのはよくない。本来ならむしろ逆に彼ら彼女らを、無理な政治的選択を強いるような場面から守らねばならない。そしてそのエンタメの能力が伸び伸びと発揮できる環境を提供しなければならない。成熟した大人社会ならそれくらいの度量は当然あっていいはずである。このことはどの国においても、またいつの時代にも起こりうる文化と政治の間の軋(きし)みとして十分留意しておく必要がある。

 思うに新聞の文化欄というものは文化を守る最後の砦(とりで)ではないだろうか。各紙には当然それぞれに異なる主義主張がある。もちろんそうあるべきであるとは思うが、そのこととは切り離されて、文化欄における表現の自由や自立性は保たれていてほしいものである。というのも文化の豊かさは、政治的選択を強要することとは対極の、多様な考えや感覚を受け入れる寛容の精神に宿るものだからである。文化欄的な立場に身を置く者の、これは実感であり確信であり、また進言でもある。

【プロフィル】森村泰昌(もりむら・やすまさ)

 昭和26年、大阪市生まれ。京都市立芸大専攻科修了。ゴッホなど名画や歴史的な人物に擬した写真作品を発表。著書に「自画像のゆくえ」など。

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