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【新聞に喝!】大統領選、米メディアに起きた異変 インド太平洋問題研究所理事長・簑原俊洋

10月31日、トランプ米大統領の集会が開かれたペンシルベニア州バトラーの会場周辺(AP)
10月31日、トランプ米大統領の集会が開かれたペンシルベニア州バトラーの会場周辺(AP)

 米大統領選の最後の討論会も終わり、本選挙まで残すところあとわずかとなった。筆者を含め、今年は史上最多の有権者が選挙日より前に投票を済ませており、それによって投票率もかなり上向くと大方の専門家は予想している。投票率が高くなれば固い支持基盤に頼るトランプ大統領にとっては不利な状況となる。勝者の判明は早くても11月3日(米時間)だが、権力の平和的な移行に言質を与えないトランプ氏が敗北を認めないなど、すんなりと決着がつかないシナリオも想定できよう。

 米メディアの報道を見渡すと、ここに来て今までなかった現象が起きていることに気づかされる。まずは米国で数少ない全国紙「USA TODAY」が、バイデン候補への支持表明を行った。同紙が特定候補を名指しで支持するのは今回が初めてである。質の高さで定評がある科学誌「サイエンス」もトランプ氏のコロナ対応を手厳しく批判し、リーダーとしてふさわしくないとの論説を載せた。

 何よりも驚かされたのは、208年の歴史を有する著名な医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」が、創刊から初めて政治的な見解を示したことにある。その名前には言及していないものの、現在米国を率いる人物のリーダーシップを問題視し、かつ米国人の命を顧みない非科学的な政策の数々は犯罪行為に等しいと糾弾している。

 政治と一定の距離を保つことを伝統としていたこれら科学系諸誌がこぞって方針を変え、トランプ氏の再選は害しか及ぼさないと切実に訴えるのは、マスク着用は政治的な表現でしかないと短絡的に位置づけ、自国民を22万人超も死なせた現実を踏まえれば無理もなかろう。つまり、尊い命を少しでも多く救うために必死なのである。今後の米国の方向性ないし国家の在り方を問う通常の大統領選ではなく、命を守るための選挙として捉えているのだ。

 日本の大統領選報道も今後さらに過熱するだろう。日本人が、米国内の惨状を肌身で感じるのは困難だし、日本の比ではないコロナ禍に直面する米国人の苦しみに同情するのも容易ではない。とはいえ少なくとも日本のメディアには、トランプ氏とバイデン氏のどちらが日本にとってふさわしいかというような狭い視点だけではなく、より普遍的な人間としての価値の問題をはらんでいることをも意識した上での報道を切に望む。

【プロフィル】簑原俊洋

 みのはら・としひろ 昭和46年、米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大デイビス校卒。神戸大大学院博士課程修了。博士(政治学)。同大学院法学研究科教授。専門は日米関係、国際政治。

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