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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】私を待ってる人がいる・10月27日

 夫は10年前に軽い脳梗塞をおこし、高齢者ホームに入居して3年半になる。

 主人を見舞うのに近道する狭い路地がある。何度この道を通っただろうか、あと何度会話ができるだろうかといつも思ってしまう。

 ドアをノックして部屋に入るとまず顔色をみる。今日は調子よさそうね? 主人はベッドの中から、うなずいてくれる。

 最初の頃は本箱の何段目の本を持ってきてくれなど、欲しいものへの注文も多かったけど、今は全く注文はない。夫婦の会話も特別になく季節の会話で終わっている。

 転勤で大阪に来てから子育ては手さぐりだった。ジャーナリストで不規則な勤務の主人の帰宅時間は全くわからない。

 今の時代と違い、テレビ、電話が一般に普及していない時代だった。仕事から戻ると、近くの交番に、その日起こった事件や事故を聞きに行くほどの仕事人間だった。

 ある時は、風呂から出てきた主人が、幼い息子を湯舟の中に落としそうになり、びっくりしたと報告してくれたこともあった。2人の子供も成長し巣立った。

 私は主人が横になって、テレビをのんびり見ている姿を見たことがない。趣味も多彩だった。現在は毎日ただベッドに横たわる日々。きっと神様はゆっくりと休みなさいと時間を与えられているのだと思う。

 結婚以来私は、いつも連絡のない主人の帰りを待っていた。今は主人が、私が行く日をホームでひとり待っている。

安部弘子 86 奈良県橿原市

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