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【朝晴れエッセー】エール・10月26日

 朝の通勤電車に乗り込んだときのことである。つり革を持って立った私が、ふと目を下へやると、教科書とおぼしき本を手に開けている男性が座っていた。

 よく見ると、それは高校の国語の教科書らしい。日本と西洋の美術作品の写真があることから判断すると、何やら芸術をテーマにした評論であろう。彼は、授業のための予習をしているに違いない。

 昔、私も若い頃、通勤電車の中で予習をしている時期があった。学校や家庭のことで忙しくて、つい電車内で予習することがあった。

 しかし、ある時、ふいに義兄は次のように話した。「通勤電車内で教科書を見ている先生がいてるね。よほど忙しいのだろう」。私は、この話がまるで自分のことを言っているようで恥ずかしくなり、翌日から予習は、学校か家で行うことに決めた。最近もそうしている。

 眼前の“先生”は、まるで昔の自分の姿のように映った。毎日が多忙で、学校や家で、ゆっくりと予習の時間が取れないのであろう、と同情した。彼も私のような年齢になったら、経験も積まれ、ゆとりも出てくるだろう。

 “先生”は、ある駅に来ると、多くの高校生とともにホームに降りて去っていった。その後ろ姿に私はエールを送っていた。

 スマホで近くの高校を調べると、2つの校名が出てきた。もし私がその“先生”の授業を受けるとしたら、じっくりと耳を傾ける気がした。

佐々木清次(65) 京都市右京区

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