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【直球&曲球】葛城奈海 コロナ禍の今こそ自然と向き合う

 「消えちゃうから早くー」。秋分の日の早朝、私は苗場山の山頂にいた。信越県境にまたがる苗場山はスキー場の印象が強いが、実は日本百名山の一つだ。標高2145メートルの山頂付近には池塘(ちとう)が点在する湿地が広がり、独特な景観を有している。

 友人家族とともに約5時間かけて前日登頂し、山頂ヒュッテ(苗場山自然体験交流センター)に一泊したが、その間ずっと濃い霧に包まれ、山容を眺めることが叶(かな)わなかった。朝食を済ませ、そろそろ出発というころになって、ようやくその霧が晴れたのだ。眼前に現れた眺望は圧巻だった。「苗場」の語源でもある苗に似た植物ミヤマホタルイが風に揺れる広大な湿原周囲にはオオシラビソの原生林、その向こうには鳥甲山(とりかぶとやま)、妙高山なども見渡せる。足元には、大好きな花、リンドウが露に濡(ぬ)れながら紫色のつぼみを膨らませている。天空の世界をすぐまた霧に消されるのではという予想に反し、帰路は好天に恵まれ爽快な山歩きとなった。

 山頂ヒュッテは、コロナ対策で布団の貸し出しはなく寝袋・マット持参ながら、宿泊者の上限を24人に限定し、グループごとにシートで空間を区切り、食事も密にならないよう時間と空間を分けるなど、利用者側からすれば通常営業時よりもむしろゆったりと過ごすことができた。外の木々が風に揺れている間も、ストーブのたかれた室内は暖かく、スタッフの笑顔と相まって心安らぐ時間であった。

 コロナ禍で社会に閉塞(へいそく)感が漂い続ける中、多くの人が心と体の健やかさを失ってはいないか。子供たちの修学旅行や林間学校も中止になっていると聞く。著名人をはじめとする自殺者の増加も深刻だ。こんな時期だからこそ常にも増して、汗を滴らせ、ぬかるみに足をとられ、木々の匂いをかぎ、風に吹かれ、寒さに震え、太陽のありがたさを実感する、そんな生き物としての原点を思い出させてくれるような時間が価値を増しているのではなかろうか。

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