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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】ファミレスにて・10月5日

 20年ほど前、泊まりがけのドライブの帰路、昼食のために国道沿いのファミレスに寄った。妻と私、間もなく2歳になる息子、3人の小旅行だった。

 女子高校生ふうの店員に案内されて席に着き、ランチを注文した。その店員がコップと、子供用の器をテーブルに運んだ。

 そして、アニメキャラクターの台紙を取り出して息子の前に1枚敷き、その横に2枚目を敷こうとして、「あれ」と首をかしげて引っ込めた。テーブルには水を注いだコップが4つ、子供用の器は2セット置かれていた。

 その様子を見ていた妻が「あの子がいる」とつぶやいた。

 あの子、とはその半年ほど前、夏休みの旅行中に満4歳を迎えずに事故で亡くなった上の息子のことだ。横断歩道で妻と私の目の前で逝ってしまった。シドニー五輪で日本がメダルラッシュに沸いた9月のことだった。

 それからは失意の日々で、せめて夢でもいいから会いたい、と願っては叶わなかった。その息子がまだそばにいる、と確信したのだ。

 食事が提供されると妻は「初めにジュースを飲もうね、次はハンバーグ」と姿の見えぬ上の息子に語り掛け、うんうんとうなずく下の息子のしぐさがおかしくて泣き笑いした。嬉しくも切ない、つかの間の家族4人のだんらんだった。

 食事を終えて外に出ると妻は店を振り返り、「ねえ、店員さんにはあの子が見えたのか聞いてきていい?」と言った。

 私が促すと少し逡巡(しゅんじゅん)した後、「やっぱりやめる」と首を振り車に乗った。「彼女が怖がるとかわいそうだから」

一宮学(56) 埼玉県所沢市

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