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【記者発】リモートで戦わせる文学論 文化部・海老沢類

コロナ禍の日常風景。それは文学の世界でも例外ではない=21日、東京都中央区(佐藤徳昭撮影)
コロナ禍の日常風景。それは文学の世界でも例外ではない=21日、東京都中央区(佐藤徳昭撮影)

 新型コロナウイルス禍で、オンライン会議システムを使ったリモート(遠隔)での会議は日常風景となった。作家たちがホテルなどの一室に集い、文学論を戦わせる文学賞の選考会もいまやリモート抜きには語れない。

 新鋭の純文学作品に贈られる今年の三島由紀夫賞もそうだった。9月17日の選考会は5人いる選考委員のうち2人がオンラインで参加する「半リモート」方式で行われ、無事受賞作を送り出した。

 「技術的な問題は若干あったけれど、選考にネガティブな影響を与えることはなかった」と振り返ったのは選考委員である作家の高橋源一郎さん。冗談めかしたこんな感想が面白い。「リモートは『離れ小島』なので影響が薄くなるのかなと思ったら、遠くからの声のほうが説得力があるんですよ。リモートの2人の影響が強い。次回から(自分も)リモートにしようと思ったくらいで」

 別の人が話している間は声をかぶせずに、じっと耳を傾ける。オンライン会議の利点の一つだろう。リモート選考を導入したほかの文学賞でも例年通りのスムーズな選考ができたとの評価をよく聞く。大きく変わったのはむしろ選考会の「後」かもしれない。ひと仕事終えた選考委員は場所を移し、お酒を飲みながら“場外戦”を繰り広げることもあった。だがコロナ禍でそんな会食の機会は減った。

 作家の北方謙三さんが語っていた直木賞選考の裏話を思い出す。北方さんは、候補作のうちミステリー小説にいつも厳しい点をつける作家の渡辺淳一さんと選考会の終了後もバトルを重ねた。銀座のクラブで、あるときはバーのカウンターで。渡辺さんにミステリーの魅力を説き続けた。熱い思いはやがて渡辺さんに届く。「僕はボディーブローを打ち続けた。小説観は作家の中心にあるものだから激しくぶつかりますよ」と北方さんは話していた。

 今こうした熱の行き場はあるのかな?と寂しさを感じる一方、人間は案外柔軟なものだとの思いもふと兆す。オンライン飲み会よろしく、文学賞選考のオンライン場外戦があってもおかしくはない。缶ビール片手に、作家が画面越しに文学観をぶつけ合う。そんな形で新しい才能に光が当たるのもまた楽しい。

【プロフィル】海老沢類

 平成11年入社。横浜総局、福島支局郡山通信部、東京本社整理部、社会部などを経て文化部。現在は文芸関係の記事を主に担当している。

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