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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】新聞配達・9月29日

 私が小学生の頃は、世の中がまだまだ経済的に困窮していた時代。母子家庭で育ったわが家も貧しく、遠足のリュックサックが買ってもらえず、姉の赤いリュックサックを持っていくのがつらかった。

 そこで自分でも稼ごうと小学6年3学期から夕刊だけの新聞配達を始めた。当時のバイト先は新聞配達くらいしかなく、販売店も自宅から遠くて帰宅して駆けつけるので遅刻が多かった。

 それどころか、なかなか約80軒の配達先を覚えられず、入れ忘れて探し回ることもしばしば。そんなことで最後の配達先のおじさんから「こら、遅いぞ!」とよく叱られた。

 販売店に夕刊が1時間くらい遅れて届いたときのこと。真っ先に思い浮かんだのはおじさんの怒った顔だった。

 案の定、玄関先に出てきて「今まで何をしていたんや!」とすごい剣幕(けんまく)。恐る恐る夕刊を渡し「今日は臨時ニュースで到着が遅くなりました」と言うと、紙面を見て「すごいな。しょうがないな!」と笑顔で受け取ってくれた。

 それは、昭和36年4月12日、ソ連のガガーリンが人類初の有人宇宙飛行に成功した記事だった。どれだけ重要なニュースとはわからなかったが、貴重な情報を知らせる新聞を配達していることが誇りに思えた。

 このことで自分自身に自信を持てたのか、新聞配達が楽しくなり配達先に「夕刊です!」と笑顔で挨拶するようになった。それからのおじさんは「ご苦労さん」「頑張りやー」と言ってくれるようになった。

 60年前の勤労体験が、その後の人生に大きな自信を与えてくれた。

鈴木和夫 71 大阪府枚方市

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