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【朝晴れエッセー】ヒグラシと母・9月15日

 私が小学校に上がった頃には、母は昼間には働きに出て、学校から帰っても一人で留守番することになっていた。そのため、夏休みなどは母の帰宅まで、近所の子供らを誘って、近くの神社で遊んで帰る。

 神社とわが家の間には、100メートルほどの昼間でも薄暗い杉林があった。杉林の中央に道があるのだが、昼間でも薄暗い。その林は、ヒグラシのすみかでもあり、日暮れには一斉によく鳴いた。

 ヒグラシが大きく鳴けば、母が仕事から帰ってくるものと考えていたので、それを合図に家路についた。帰り道の杉林のトンネルの先に、逆光を背景にした母のシルエットを見つけて懸命に走って駆け寄った。

 ところがある日、周囲が薄暗くなってもヒグラシは鳴かない。そんな折、母がトンネルの向こうから私を珍しく迎えに来た。

 とても心配したようだが、何があったか聞くと、トンネルの向こうで大きな交通事故があったらしい。もしや、その事故に巻き込まれたのかと探しに来た。

 私は、子供ながらに、ヒグラシが「まだ帰るな。もう少し待て」と鳴くのを止めたのだと思った。

 ヒグラシという蝉は、日暮れ時になると鳴くので「日暮らし」と呼ばれる。蝉のなかでも、初秋に似合う物悲しい鳴き方をするように思う。

 まだ、遊び足りない、あるいは寂しいと泣いているような、当時の自分の心情と重ねてしまう。さらに、あのときの母のシルエットがまぶたに浮かぶのだ。

道場康二(62)会社員 神戸市垂水区

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