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【春風亭一之輔の直球&曲球】急患よりも「コロナが怖い」人たち

JR品川駅からマスク姿で職場に向かう人たち=5月26日午前、東京都港区(宮崎瑞穂撮影)
JR品川駅からマスク姿で職場に向かう人たち=5月26日午前、東京都港区(宮崎瑞穂撮影)

 先日、山手線に乗っていると、私から3メートルほど離れたところで「ドターンっ!」と大きな音。見ると女性が前のめりに倒れて痙攣(けいれん)していた。

 座席はほぼ埋まっていたのに、誰も動かない。「近くにいるのに誰も何もしないの?」と思いつつ、とりあえず駆け寄り「大丈夫ですかっ!」と声をかける。頭は動かさないほうがいいだろう…くらいは分かるのだが、後はどうしたものか…。

 数回声がけをしても反応がないが、呼吸はあるようだ。スマホで119番した。誰かが非常停止ボタンを押したのだろう。電車が止まる。

 電話がつながった。今、山手線のどことどこの駅の間なのか、何両目付近なのか、女性がどのような様子なのか、を電話口で聞かれ、「次の駅のホームに着いたらその人を降ろしてください」と言われた。

 電話を切ると、遠くの方から年配の女性が近づいてきて、「マスク外してあげたほうがいいんじゃないかしら?」。慌ててその女性のマスクを外すと、とたんに近くの乗客が何人か席を立った。

 もう1人、男性が近づいてきて、女性の脈を取り始めた。「ちょっと速いですね」と男性。電車が駅に着いた。

 3人でソロリソロリと女性をホームに下ろす。年配女性が倒れた女性のカバンを渡してくれたが、「ここでごめんなさいね」と電車に乗り、数十秒後に電車は発車した。

 遠くから駆けてくる駅員。「おーいっ!こっちこっちーっ!」。私のデカい叫び声に周りのお客は驚いた顔で振り向く。駅員さんに引き継ぎをし、救急車が来て女性は運ばれていった。

 夕食のとき「人が倒れたら普通すぐ動くよなぁ」と家内にこぼすと「コロナが頭にあるから、みんなすぐには駆け寄れなかったんじゃないの?」と言う。そうかあ? そうなのかなあ。人命が懸かってるのにそれに関わるのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうほどに『ソーシャル・ディスタンス』なるものが身に染み付いてしまったのか。

 そうだとしたら、とても切なくて怖いことだ。

【プロフィル】春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ) 落語家。昭和53年、千葉県生まれ。日大芸術学部卒。平成13年、春風亭一朝に入門して朝左久、二つ目昇進時に一之輔を名乗る。24年、21人抜きで真打ちに抜擢(ばってき)。古典落語の滑稽噺を中心に、人情噺、新作など持ちネタは200以上。

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