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【スポーツ茶論】指導の最前線ここにあり 蔭山実

 「スポーツ心理学」という言葉を聞いて、かれこれ10年近くになるだろうか。スポーツにメンタルな側面が重要なことは分かる。だが、スポーツ心理学に基づく指導が競技を超えて年々、成果を挙げているのを見て、その力の大きさを感じるようになった。

 全国高校ラグビー大会で今年1月、単独で初めて優勝した神奈川県の桐蔭学園も、その要因の一つにスポーツ心理学があった。「負傷で時間のあった主将と話をする機会が多かった」と、指導に当たったスポーツ心理学博士の布施努さんは振り返る。

 前年、決勝で敗れ、目標の頂点に届かず悩む主将。信条の、パスをつなぐ「継続ラグビー」ですら、「それで勝てるのか」と疑問を抱いた。転機になったのが「信条を目的ではなく武器として使う」という発想だった。パスが途切れても終わりではない。どの位置に攻め込み、そこからどう展開していくか。キックを合わせても「継続ラグビー」は使える。考え方を変えることでチームは進化した。

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 「チームの“最高”を引き出す技術」。布施さんが7月初旬、オンラインセミナーを行ったところ、全国からあらゆる競技の指導者ら320人が受講登録をした。テレビ会議システムを活用し、リポートの作成や小グループでの討議といったワークショップも交えて2時間近く行われた。

 大きな柱は、スポーツを通じて獲得できる「ライフスキル」。「スポーツ心理学で勝つ」とインターネット上で検索すると詳しい情報が得られるが、「成功と失敗のハンドリング」「目的を達成するための柔軟な発想」「自分を正しく評価する」など、多様な能力を身につけることでチームの最高の力を引き出すという理論だ。

 その基礎が「考え方のトレーニング」にあるのだが、それにはチームで部員同士が率直に話し合う環境づくりが重要になるという。不安を隠さず、誰もがそれを言葉にできるような姿勢が欠かせない。

 桐蔭学園ラグビー部はミーティングに6時間もかけることがあった。全国制覇に主将は「不安のある試合にしたくなかった。すべて想定内の展開だったから勝てたのかもしれない」。不安を語り合うことが選手を伸ばすのである。

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 「イノベーションとは革新的な新しい発想だけをいうのではない。すでにあるものの組み合わせを変えて、新しい価値のあるものを生み出す発想でもある」。布施さんのオンラインセミナーの興味深いところは、それ自体がスポーツ界の指導を変える基盤ともなりうることである。

 テレビ会議システムは致し方のない状況だと思いがちではないだろうか。特定の地域、参加者を対象に会場を借りて開いていたセミナーが場所を選ばず、全国の希望者を対象にできるようになると話は違ってくる。この転換はスポーツ界での指導のイノベーションにつながるはずだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大で、部活は練習をすることが難しくなるだけではなく、ミーティングすらできなくなるという、これまでに経験したことのない事態に陥った。しかし、当たり前に行ってきたことができなくなり、その価値に気づくことで新しい発想が生まれる。

 その環境をどう築くかは指導者の考えに負うところが大きい。“リモート指導”でも立派なスキルを身につけた若者が輩出するよう願いたい。それがスポーツ指導の財産となり、将来に向けて人材の育成に効果を発揮するだろう。

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