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【朝晴れエッセー】最後のツーショット・7月29日

 義弟の実家がある里山の近くに、観光客にあまり知られていない桜の絶景が連なる場所があるという。

 妹が、「花見に行こう」と誘ってくれたのは去年の春。ちょうど開花時期にあいにくの雨に見舞われたものの、それでも桜は凜(りん)として里山を彩っていた。

 過ぎた歳月を思わせる太く苔(こけ)むした幹。一体、幾つの春を見てきたのだろう。薄いピンク色の帯が心に溶け込み散りゆく花びらにさえ郷愁を覚えた。「来年また会おうね」と桜に約束した。

 今年も、義弟と3人で眺めた春は巡ってきたのに、あんなに元気だった妹はもういない。「好きで一緒になった仲。最期まで僕が面倒を見ます」と自宅介護を決断した義弟は、介護の交代を申し出た私にそう言った。

 妹は、自分の好きなようにリフォームした自宅でお気に入りの家具や子供、孫たちに囲まれ昨年の夏、68年の生涯を閉じた。義弟は今、伴侶を失った悲しみを必死に乗り越えようとしている。55歳で夫を亡くした私には彼の気持ちは痛いほどわかる。

 5年前92歳で他界した母を何年もの間、週1で買い物や食事に連れ出し、家を継いだ私に息抜きの時間をくれた妹。母が入院したときは妹の存在がどれほどありがたかったか。

 たった一人の妹-。死を悟った妹が誘ってくれた1年前の写真館でのツーショットが私と妹の最後の写真となった。明るく、誰からも愛されたその笑顔が今日も微笑みかける。

 「お姉ちゃん、ファイト!」と。

細川江美子 71 和歌山市

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