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ニュース コラム

【新聞に喝!】危機突破のユーモアに注目 美術家・森村泰昌

 新聞には、政治や経済といった国家の先行きを左右する重要な記事とともに、暮らしや芸術、芸能、スポーツといった文化領域にまつわる記事もある。多様な情報の提供が人々の心の豊かさにもつながっていく。6月25日、サザンオールスターズによる横浜アリーナでの無観客ライブは、多くのメディアが取り上げた。オンラインで視聴できるチケットは3600円で約18万人が購入、推定50万人が視聴したという。

 各種ライブ活動にとって必須であった「密集、密閉、密接」が、今は当たり前ではなくなった。むしろいかにしてこれを「新しい生活様式」にフィットさせ得るかが問われている。サザンライブの成功はこの問いに見事に応えた成果である。たとえライブを視聴していなくても、このニュースを読んだり見たりしたひとたちに爽やかな気分を与えたのではないか。世の中を覆う閉塞(へいそく)感が破られたように感じた人も多いだろう。

 政治の世界にも感受性の在り方自体がアーティスティックと呼べる人物がいる。台湾のIT担当閣僚、オードリー・タン(唐鳳)氏である。この人もまた閉塞感に風穴を開けた一人で、日本の新聞がもっと注目してよい人物である。1981年生まれでIQが測定不能といわれるほどの天才肌。トランスジェンダーで履歴の性別欄には「無し」と書かれているという。

 タン氏を有名にした政策にマスク在庫アプリがある。これにより、マスクの平等な配布が円滑に進むようになった。興味深いのは、この人のプロジェクトが持つ特徴である。タン氏が手がけると堅苦しいお役所仕事にも、どこかキュートなイメージが現れる。例えば、トイレットペーパー不足の不安から買い占めパニックが起きたとき、お尻を左右に振る政府高官の後ろ姿をマンガにして、「誰でもお尻は一つしか持っていない」というメッセージをつけた。十分な在庫状況をこうしてユーモラスにSNS発信する感覚の持ち主である。あるいはデマ情報への対策として、ファクトチェックを行うロボット犬のキャラクターを登場させ、「Humor over Rumor(笑いは噂に勝る)」と解説する。

 香港の民主化運動に対する中国政府の高圧的態度が、台湾に与える危機感はいかほどのものか。想像もつかないが、タン氏はここでもあのユーモアの力を駆使できるだろうか。感受性という文化的側面からも、今後のタン氏の動向には注目しておきたい。

【プロフィル】森村泰昌

 もりむら・やすまさ 昭和26年、大阪市生まれ。京都市立芸大専攻科修了。ゴッホなど名画や歴史的な人物に擬した写真作品を発表。著書に「自画像のゆくえ」など。

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