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【風を読む】古き革袋に新しい酒を 論説副委員長・別府育郎

レバンテ戦の後半、ゴールを決め喜ぶマジョルカの久保建(右から3人目)=9日、パルマデマジョルカ(共同)
レバンテ戦の後半、ゴールを決め喜ぶマジョルカの久保建(右から3人目)=9日、パルマデマジョルカ(共同)

 17歳の高校生棋士、藤井聡太新棋聖が誕生した棋聖戦のライブ中継に見入った。一手一手の所作にみなぎる緊張感。若き天才と、これに立ちはだかる現役最強の渡辺明前棋聖。終盤、渡辺前棋聖の口から漏れた「まじか」のつぶやきに、万感の思いを聞いた。

 子供のころ、日曜午前のテレビのチャンネルは父が独占していた。延々と囲碁番組が流れ、黒白の石が置かれる様子を門前の小僧ともなれず、ただ漫然とながめていた。父から初歩の手ほどきを受け、定石集を渡されたが、すぐに音を上げた。仲間と興じる草野球の方がずっと楽しかった。あのころ真剣に向き合っていれば、の後悔の対象は、囲碁だけではないが。

 棋界の人々は言葉がまたいい。藤井新棋聖はAI(人工知能)との共存期における棋士の可能性を問われて「将棋界の盤上の物語の価値は不変」と答えた。羽生善治九段は本紙への寄稿に藤井新棋聖の差し手を「古き革袋に新しい酒を盛ることとなり、令和時代の味に変化をしました」と記した。

 若き才能の台頭は心を躍らせる。

 日本の10代の活躍は、藤井新棋聖だけではない。スペインではサッカーの19歳、久保建英が本場のファンをその技術でうならせている。レアル・マドリードからの期限付き移籍で在籍したマジョルカは1部リーグに残留できなかったが、9日のレバンテ戦では今季4点目を決め、スペイン紙ASは久保の活躍を「レバンテに麻酔を打ち、マジョルカに燃料を与えた」と評した。王国中国も恐れる日本卓球女子のエース、伊藤美誠も19歳。男子のエース、張本智和は17歳だ。

 藤井新棋聖は14歳の史上最年少でプロ入りを果たした。久保は10歳でFCバルセロナの下部組織の入団テストに合格し、海を渡った。伊藤は10歳で出場した全日本選手権で初勝利をあげ、張本は13歳で世界選手権の日本代表に選出された。彼らは突然変異の早熟の天才ではなく、英才教育が施した最高傑作である。いわば古い革袋が醸成した期待の新酒ともいえる。

 新酒のお披露目にはタイトル戦のような大舞台が必要だ。久保も伊藤も張本も、今週末に開幕するはずだった東京五輪の代表である。願わくば1年後に、その舞台が用意されんことを。

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