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【直球&曲球】野口健 小さな1歩からの再スタート

 羽田空港の第2ターミナルで再開された全日空の搭乗カウンター。新型コロナウイルス感染予防のため、飛沫防止用のシートが設置されていた=7月1日午前
 羽田空港の第2ターミナルで再開された全日空の搭乗カウンター。新型コロナウイルス感染予防のため、飛沫防止用のシートが設置されていた=7月1日午前

 本来ならば今頃、ヒマラヤ遠征を終え日本に帰国していた。新型コロナがまたたく間に世界中を駆け巡りネパールもロックダウン。ヒマラヤに限らず世界中の山々が登山禁止になった。日本でもステイホーム生活。僕も3月上旬までは八ケ岳に通い、ヒマラヤに向けトレーニングに明け暮れていた。確かに山は人が少なく新鮮な空気。街よりも山の方が安全だろうと感じつつも、悪化していく状況に、僕が地方へ感染を広げてしまう可能性があると思い、山から足が遠のいた。

 そして緊急事態宣言の発令。ゴールデンウイーク前には僕も積極的に登山への自粛を呼びかけた。なぜならば、山小屋では3密を避けるのが極めて難しい。また仮に遭難者の中に感染者がいればレスキュー隊員への感染リスクが高まるし、防護服を着用しながらの捜索活動は過酷極まる。濃厚接触者となればレスキュー隊員も現場を離れ隔離生活を余儀なくされる。その状況で遭難者が相次げば捜索体制に穴があくからだ。

 1カ月半後、緊急事態宣言は解除。日本は感染拡大を抑えつつあったが、コロナとの戦いは終わってはいない。ではこれからどのようにコロナと向き合っていくのか。僕自身、どのタイミングで山に戻っていいのか葛藤の日々が続いた。「閉めること」よりも「開ける方」がはるかに難しいのだ。緊急事態宣言中、車が鳴らすクラクションの音が気になった。車による死亡事故も増えた。自粛生活によるストレスも影響しているだろう。改めて感じたことは長期戦に備える上でメンタルをコントロールしていくことの難しさだ。

 今までは大きな山に登ることを目標にしてきた。今は大きな目標に挑戦するよりも、目の前の小さな目標を一つ一つ大切に積み重ねていく方が大切なのだろうと。まずは日帰り登山からスタートしたい。また行き慣れた山を登ることで遭難のリスクを抑えること。登山道の整備された里山を登るのもいいし、森の中を歩くハイキングにも多くの発見はある。小さな1歩から再スタートしたい。その一歩一歩の積み重ねがヒマラヤへとつながっていくと信じて。

【プロフィル】野口健

 のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題、戦没者遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍。著書に『震災が起きた後で死なないために』(PHP新書)。

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