PR

ニュース コラム

【大阪特派員】エトランゼの見た大阪点景 山上直子

大阪・道頓堀の戎橋=5月20日
大阪・道頓堀の戎橋=5月20日

 道頓堀をうろついていた小林秀雄の頭に突然、モーツァルトの調べが鳴った-。

 思わず「ほんまかいな」とツッコミを入れたくなるような不思議なシチュエーションだが、本人が書いているのだから間違いない。

 都道府県をまたぐ往来が緩和され、にぎわいが戻りつつある大阪の街を思い浮かべながらおもしろい本を読んだ。

 詩人で文芸評論家の倉橋健一さんの新著「人がたり外伝 大阪人物往来」(澪標)。大阪を行き交う人による大阪体験記を独自の視点でまとめたもので、意外な人が意外な大阪の場所を通り過ぎていったこと、そのとき何を感じたかといった“記憶”を掘り起こして興味深い。辻潤、夏目漱石、松本清張、三島由紀夫、谷崎潤一郎、折口信夫…と、紹介されている43人の顔ぶれを見るだけでもちょっとわくわくするというものだ。

 冒頭の小林秀雄は、終戦の翌年に発表された「モオツァルト」から。小林はそのころ東京帝大を卒業して大阪にいた。有名な話だが、詩人・中原中也と女優の長谷川泰子との三角関係に疲れ、奈良に住む志賀直哉のもとを訪ねていたのである。

 <関西の小林は、四天王寺の亀の子がうじゃうじゃしている池を終日眺めながら、日向ぼっこをするような生活をつづけていた。また道頓堀を歩いていて、急に音楽が聴きたくなり、蓄音機屋へ飛びこむようなこともあった。モーツァルトのト短調シンフォニーが頭のなかで鳴ったのも、そんなひと駒だったろう>(「大阪人物往来」から)

 倉橋さんはそう推定しつつ、音楽を通じて小林の心理を解き明かそうと試みる。

 「暗い不気味な雰囲気はまるでなく、清冽(せいれつ)な悲しみといった印象のほうが強い。小林秀雄のなかに、すでに回復がはじまっていたとみてよいだろう」というのだ。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ