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【記者発】規律の裏の不穏な「空気」 神戸総局・宝田良平

都営地下鉄の駅に貼られた夜間の外出自粛をお願いするポスター=4月4日、東京都新宿区(萩原悠久人撮影)
都営地下鉄の駅に貼られた夜間の外出自粛をお願いするポスター=4月4日、東京都新宿区(萩原悠久人撮影)

 「致死率の高い病気はいろいろあるけど、それらは人類にとってさほど大きな脅威じゃない。かかって二、三日で発症して、すぐに宿主を殺してしまうような病気は、強力すぎてそれほど広がらない」

 「ウイルスがその時代の人間の行動様式にがっちりはまりこむことが、最大の脅威なんだ」

 SF作家の小川一水は、小説「天冥(てんめい)の標(しるべ)」シリーズ(早川書房)の第2巻で、主要人物の感染症専門医らにこう語らせている。

 全宇宙規模の壮大な戦いを描き、今年2月に日本SF大賞を受賞したシリーズの中で、201×年代の地球を襲った「冥王斑(めいおうはん)」のパンデミックをテーマとする同巻は、未来の人類分断の序章となっている。発行された10年前に読んだきり記憶が薄れていたが、この新型コロナウイルス時代にもう一度手に取ると、感染症に対する歴史的認識や患者への差別、それを取り巻く政治の描写は改めて鋭く、迫真的だ。

 さて、グローバルな現代人の行動様式にがっちりと食い込み、世界に広がった新型コロナは、今や日常生活の隅々に浸透し、それぞれの国が隠しておきたい個別的事情すら、あぶり出そうとしているように見える。全米に拡大した最近の人種間対立も、コロナ禍における経済・医療格差が背景にあるといわれる。

 日本では、欧米式の強権的なロックダウン(都市封鎖)なしに、国民の規律ある外出自粛により感染拡大を封じ込めたと評価されるが、それは「自粛警察」や「同調圧力」に代表される不穏な空気の存在と表裏だろう。

 ほぼ強制力のない行政の自粛要請=お願いという曖昧(あいまい)さもいかにも日本的で、強制しないことで補償の問題を顕在化させまいとする意図すら感じてしまう。

 コロナと親和的な行動様式を変えるため、最近は「新しい日常」といった用語が行政でよく使われているが、その土台となるべき国民の権利と制約に関する議論はほとんど何も進んでいない。「新しい日常」も早晩、空気の仲間入りをしないかと心配している。

【プロフィル】宝田良平

 平成13年入社。大阪社会部時代は刑事司法分野を中心に、「大阪維新の会」が掲げる大阪都構想をめぐる動きも取材した。今年2月から神戸総局勤務。

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