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【新聞に喝!】「武漢ウイルス」が差別というなら 元東京大学史料編纂所教授・酒井信彦

 中国・武漢の病院で、発熱患者のための窓口に並ぶ市民ら=1月31日(共同)
 中国・武漢の病院で、発熱患者のための窓口に並ぶ市民ら=1月31日(共同)

 新型コロナウイルスをめぐって、中国の「武漢」を冠して「武漢ウイルス」「武漢肺炎」などと表現するのが、良いか悪いか問題になっている。「海鮮市場」にしろ、「病毒研究所」にしろ、武漢由来に違いないから、産経新聞では必要に応じて、使用されている。

 一方、朝日新聞は、3月29日の投書欄「声」で、静岡県の男性が米国のトランプ大統領やポンペイオ国務長官、日本では麻生財務相が、「中国ウイルス」「武漢ウイルス」と呼ぶのに、疑問を呈している。また、同紙の5月1日社会面の「『みる・きく・はなす』はいま」の欄では、葛飾区議の人物が演説で「武漢コロナ」「武漢肺炎」と連呼するのは、排外主義であると批判している。

 この問題については、朝日新聞デジタルにある福岡市の内科医の「医心電信」というコラム(3月9日)が解説していた。2015年に決められた「ヒトの新興感染症の名称に地名は使えないというルール」があるのだという。地名だけでなく動物の名、人名や職業名も使えない。このルールを知りながら、「意図的に『武漢肺炎』などと呼んでいたとしたら、これは差別に他なりません」とのことである。

 ただしこれでは、まだ不可解なことが多すぎる。今回、コロナウイルスに関連して「川崎病」と思われる幼児の患者が、米国で出現した。米国のニュース画面にも「KAWASAKI」とはっきり出ている。この場合、地名ではなく、発見者の川崎富作という人名であるようだ。

 先の「声」欄の筆者は「水俣病」を問題にして、その名のために「住民はいわれなき偏見に苦しめられ、就職や結婚で差別を受けた。海産物の風評被害は計り知れないものだった」と述べている。そういえば、「四日市ぜんそく」と言うのもあった。

 さらに日本人として不快なのは、国名そのものの「日本脳炎」であり、「日本紅斑熱」である。「川崎病」「日本脳炎」は、先ほどのルールに明らかに合致していない。しかしこのルールは、中東呼吸器症候群(MERS)をきっかけに決められたが、その後に発生した新感染症にしか適用されないのだという。

 あまりにも、不合理な話である。これでは「武漢ウイルス」を差別としながら、「中東差別」も「日本差別」も相変わらず温存されることになる。大いなる欺瞞(ぎまん)と言うしかない。新聞は、公害病の表現も含めて、この実情を明確に説明する責任がある。

【プロフィル】酒井信彦

 さかい・のぶひこ 昭和18年、川崎市生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。東京大学史料編纂(へんさん)所で『大日本史料』の編纂に従事。

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