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ニュース コラム

【記者発】電子で届ける本の魅力 文化部・海老沢類

 新型コロナウイルスの感染拡大は、既存の産業構造や働き方に大きな変化を迫っている。出版界も例外ではない。

 4月の緊急事態宣言後、都市部の大型書店は軒並み臨時休業し、多くの図書館が閉まった。需要が集中したネット書店では品切れになる本も出た。読みたいと思っている人に本が届かない-。そんな事態に胸を痛め、これまで自著の電子化に慎重だった作家たちが相次ぎ電子書籍版を刊行しているのだ。

 東野圭吾さんは映像化されたミリオンセラー7作を初めて電子書籍化。森絵都さんも直木賞受賞作「風に舞いあがるビニールシート」や100万部を超えた「カラフル」など8作を電子書籍で出した。

 「紙の本への愛着があり、いつかは…と思いながらも、電子化をぐずぐずと先延ばしにしてきました」。出版社を通じて発表したコメントで、森さんは率直な心境を明かしている。「外出にリスクがつきまとうようになった現状の中で、電子書籍という形であれば、他者との接触皆無で物語を届けることが出来る。今まで思いもしなかった電子化のメリットを感じました」

 本の世界でも電子化の流れは着々と進む。出版科学研究所によると、昨年の電子出版の推定販売金額は前年より23・9%増え、3072億円に達した。ただ、この成長を牽引(けんいん)するのは同29・5%近く伸びたコミックで、小説などのいわゆる「文字もの」は同8・7%増にとどまる。細切れの時間にスマートフォンで気軽に1話ずつ読めるコミックは電子との相性がいい、という要因もある。だが「文字もの」の品ぞろえがコミックに比べて十分ではなく、読者の要望に応えられていない、という指摘も根強くあった。

 電子出版をめぐるそんな構図が「コロナ後」に揺らぎそうな予感がある。実際、ある出版社の社員は「電子書籍の売り上げが伸び、著者から電子化の繰り上げ要請も出るようになった」と明かす。

 大型連休明けの今月7日、営業を再開した東京の大型書店にはたくさんの人が足を運んだ。その中には外出自粛を機に電子版で活字に触れ、紙の本の魅力に改めて気づいた人もいるかもしれない。電子と紙の共存を願いつつ、読者の本との触れ合い方の変化をじっくり見つめていきたい。

【プロフィル】海老沢類

 平成11年入社。横浜総局、福島支局郡山通信部、東京本社整理部、社会部などを経て文化部。現在は文芸関係の記事を主に担当している。

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