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【一筆多論】ひたひた迫る「中国流」 長戸雅子

台湾に根拠のない批判を向けるエチオピア出身のテドロスWHO事務局長(左)=3月16日、スイス・ジュネーブ(ロイター)
台湾に根拠のない批判を向けるエチオピア出身のテドロスWHO事務局長(左)=3月16日、スイス・ジュネーブ(ロイター)

 「味をしめてしまったということでしょうか…」

 身もふたもない表現かもしれないが、この言葉がストンと腑(ふ)に落ちた。

 元国際公務員がポツリともらした「中国が国際機関に進出する理由」である。

 特許や商標など知的財産の保護を促進する国連の専門機関、世界知的所有権機関(WIPO)のトップを決める3月の選挙では敗れたものの、中国はこの10年余に数々の国際機関にトップを送り出した。現在も国際電気通信連合(ITU)、国際民間航空機関(ICAO)など15ある専門機関のうち4つでトップを務めている。

 人権、環境、貿易など国際組織のルールや指針は米欧のイニシアチブでできたものが多い。中国はかつてこうした規範づくりの分野に関心を示してこなかったが、最近は違うという。

 「組織の運営や規範を『中国流』に変えようとの野心をひたひたと感じる」(国連関係者)

 トップ就任はその手段の一つだ。トップになれば、他国の動向や思惑、最新の情報や最先端の知見が入ってくる。組織の意思決定や運営に影響力を行使できるのは言うまでもない。

 分かりやすい例が新型コロナウイルス対策に取り組む世界保健機関(WHO)だろう。中国は2007年に香港出身のマーガレット・チャン氏をトップに送り込み、中国と対立する蔡英文氏が総統になると台湾のWHOへの参加をほぼ全面的に阻んできた。現事務局長のテドロス・アダノム氏はエチオピア出身だが、この路線を引き継ぎ、台湾に根拠のない批判を向ける。緊急事態宣言の発出は遅く、宣言とセットで出されるはずの中国への渡航制限勧告は見送られた。自国もWHOも中国から巨額の支援を受けている。操り人形だ。

 中国政府高官が局長を務める国連本部の経済社会局も同国の思うままだ。習近平政権が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」をITUとともに推進し、中国国内に関連の大型研究所まで作らせてしまった。

 WIPOへの立候補も知財で自国に有利なルールを作るとの狙いが浮かぶ。

 一方、日本は2019年に国際原子力機関(IAEA)の天野之弥(ゆきや)事務局長が亡くなって以来、日本人の国際機関トップは不在だ。

 国連事務次長などを務めた赤阪清隆フォーリン・プレスセンター理事長は、32年前に日本人が初めて国際機関トップに選ばれたWHOを再び目指すべきだと主張する。「国際機関に冷淡とされる米国も世界銀行やユニセフは絶対に手放さない。日本もそういう組織があってよいはずです」

 もっともそれには熾烈(しれつ)な選挙戦を勝ち抜かなければならない。かつて日本は政府開発援助(ODA)など途上国への多様な支援をてこに支持を集めてきたが、最近はその地位を中国にとって代わられている。

 「だからこそ政府が戦略を持ち一丸となって臨む必要がある」(赤阪氏)

 3月末、日本記者クラブで孔鉉佑中国大使の記者会見があった。WIPOの選挙結果をどう受け止めているかを尋ねると「選挙ですから。勝ちもあれば負けもあります」とまずはスマートな回答。しかし、立候補の理由を尋ねると「世界の課題である知的所有権に貢献したいから」。

 腑に落ちるどころか虚を突かれてしまった。(論説委員)

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