【一筆多論】中国依存を見直すときだ 長谷川秀行
平成24年秋、中国で反日デモが吹き荒れていたころの話である。上海にある日本の大手衣料チェーンの店舗が「尖閣は中国領土」とする張り紙を出し、その写真がネット上で波紋を呼んだことがあった。売らんがために中国に迎合するのかという苦情が日本国内で殺到し、不買運動まで取り沙汰される騒ぎとなった。
ところが、この会社で現地を統括する責任者に話を聞くと、実態はずいぶん違っていた。真相は、地元警察から強制的に張らされたのだという。いったんは警察の指示を拒んだが、断り続けると、反日デモで群衆に襲われても守ってもらえない恐れがあり、応じざるを得なかったそうだ。
「われわれも命を守らなければならないんです」と語った、この責任者の悲痛な声は今も忘れられない。
このことを思い出したのは、新型コロナウイルスをめぐる中国政府の対応をみたとき、日本企業の対中ビジネスにおける政治リスクについて、改めて考えさせられたからである。
感染症の発生そのものはどの国にもあることだ。今回の感染拡大の起点が武漢だからという理由で、中国の責任を問うのは適当ではない。問題は、習近平政権が当初、情報を隠蔽(いんぺい)・統制して適切な初動対応を怠ったことにある。
それが武漢での爆発的な感染につながり、その後のパンデミック(世界的な大流行)を招く大きな要因となった。ある意味ではこれも、中国共産党の一党独裁体制がもたらす政治リスクの発現といえるだろう。
冒頭で紹介した24年秋のころはもちろん、その後も日中間の緊張が高まるたびに、日本の経済界では、東南アジアなど中国以外に生産拠点を置く「チャイナプラスワン」の必要性が盛んに議論されてきた。