PR

ニュース コラム

【論壇時評】4月号 新型コロナ禍に揺れる民主主義 文化部・磨井慎吾

 一見、独裁が新型コロナ対策に功を奏したかのように見える中国であるが、内実を観察すれば、そもそもの初動の失敗と隠蔽(いんぺい)に始まる錯誤の連鎖など、その体制に起因する脆弱(ぜいじゃく)性もはらんでいる。今回、義経の八艘(そう)跳びのごとく多数の媒体を股にかけ活躍する中国専門ジャーナリストの高口康太が中公に寄せた「新型肺炎で顕在した“ピーキー”な中国」は、一旦ある政策の実施に踏み込めば上層部の思惑を超えて巨大な全体が動いてしまう中国を、大馬力かつ利きすぎるアクセルとブレーキを持つ自動車にたとえて“ピーキー(高性能だが操縦困難)”と表現する。

 初動で失敗した中国は、今度はすぐに武漢市の封鎖のみならず、全国の自治体が先を争って市民の行動制限を実施するなど、逆方向に振り切った政策に走った。だが、感染症対策を最優先して民間の経済・社会活動を止めてしまえば、今度は経済崩壊による多数の困窮者や死者が出てしまう。巨大独裁国家ゆえの政策バランスの保ちがたさは中国特有ではあるが、焦点である「感染症のリスクと社会へのダメージを最小化するギリギリの均衡点が求められる」(高口)という国家運営上の課題自体は日本にとっても共通しており、対岸の火事ではない。

 批評家の東浩紀とAIに詳しい法学者の山本龍彦の対談「『民主主義の抑制』が問われる21世紀の政治思想」もまた、中国が世界の先端を走るデジタル技術による国民監視の問題を取り上げて射程の長い議論を展開する。21世紀の技術が築く監視社会は、個人の主体性やプライバシーと引き換えに、民衆が求める便利さや安全、健康をもたらしてもくれる。巨大IT企業が提供するサービスに市民生活が依存を深める現状を考えれば、社会の監視化は世界的な問題ともいえる。

 テクノロジーの発展で民主主義の前提となる自己決定権を持った主体という近代ヨーロッパ的な考え方が揺らいでいるとみる東が、主に人間観の面から「GAFAなど巨大IT企業が目指すところも、中国が向かうところも結果的にはあまり変わらなくなるのではないか」と展望するのに対し、山本が「GAFAにもパターナリスティックな部分がありますが、主体性はまだ尊重されている。それは一つに、競争原理が一応働いているからです」と答えるなど、基本的認識は一致しつつも、思想家と法学者という視点の違いが表れた緊張関係が面白い。

 Voiceの特別企画「10年目の3・11」からは、與那覇潤「『シングル・イシュー』の政治を超えて」が出色。脱原発や反政権、消費税増税反対など、意見が一致する一点に絞って思想が違う相手と協力する政治手法「シングル・イシュー・ポリティクス」について、それが55年体制的な党派性を超えた柔軟で新しいスタイルのように見えて、実際はいかに東日本大震災後の言論の質を低下させる方向に作用したかを説く。「運動が掲げる争点以外については『何も考えない』『思考を促す人は敵認定する』風潮が高まっていった」結果として、「メインになる争点を絞ることが、むしろ運動の性格を非寛容にし、(長期的には)狭い範囲の人しか参加できないものにしてしまう」現象が生じる。少数派としての焦燥感を抱いた内部では、先鋭化と質の劣化が進む。類似の現象が最初に生じたのが平成半ばの保守論壇、とする指摘も含めて、社会運動失敗メカニズムの考察として卓抜だった。=敬称略

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ