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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】カウンター越しに・3月22日

 20年前、初めてのアルバイト先は地元にオープンしたてのカウンター居酒屋だった。

 元ホテル勤務のマスターによる創作料理のうまいお店で、私の主な仕事は皿洗い。カウンター越しに常連さんの会話をよく盗み聞きした。

 30歳前後の腕っぷしのいい2人のお兄さんは、悦に入るといつも自転車で行った北海道の旅の話をした。ようやくたどり着き、函館で食べた海鮮丼のあのうまさは忘れられないと。

 仕事帰りに部下と来るダンディーなおじさん。「子供が小さいうちに、本物の青い海と壮大な山々の景色を一度は見せてやらなあかんで」と部下に語る姿が印象的だった。

 皿洗いをしながら十人十色の人生観を聞けて儲(もう)けもんだなあと思いつつ、大人たちが語るさまざまな物語に憧れを抱いた。

 思えば、いくつかを実践してきた。

 大学2年の夏、親友と行った原付きバイクでの日本縦断の旅。1カ月半の夏休みを利用し、野宿・自炊での超貧乏旅行だった。旅の終盤、札幌のパチンコ店にて残りわずかな資金が奇跡的に数倍に膨れ上がり、その夜行ったカニ鍋のうまさは一生忘れられない。

 父親となり、小学生の長男、長女を連れての沖縄旅行。隠れ家的なサンセットビーチの、あの海の青さは彼らの心にずっと残ってくれるものと信じている。

 常連さんの中でもとても仲睦まじく好印象だった憧れのご夫婦が、なんと今同じマンションに住んでおられるのを見かけた。すれ違えばあいさつをするも、向こうはあの時の皿洗いだとは気づいていない様子。

 今でも通われているのかなと思いを馳(は)せつつ、このご夫婦と、現在も徒歩圏内にあるあのカウンター居酒屋へ飲みに行きたいとチャンスをうかがっている。

石本雄大(39) 大阪市城東区

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