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【新聞に喝!】感情でなく理性に響く主張を 京都大学霊長類研究所教授・正高信男

 人間はホモサピエンス(賢い人)と呼ばれるように理性的な生き物だとされているが、感情を抑えきれなくなることもある。時にそれは理性的判断を狂わせる。安倍晋三首相が衆院予算委員会で「意味のない質問だ」とやじを飛ばしたことなどはその典型で、野党議員の挑発とわかる言動に、してはいけないと理性ではわかりつつ怒りのあまり口をついたのだろう。

 怒りばかりではない。私たちにはサルにはない独特の感情が秘められている。妬み(嫉妬)が代表格だ。他人が自分と比較して、いい思いをしていると思えばむかつく。日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告の日本脱出に対する社会一般の反応には、こうした感情の噴出が認められた。ゴーン被告は、有罪が前提とされ、基本的人権が無視されている日本の刑事司法制度が、逃亡の動機だと主張した。報道された言い分には聞くべき点もあると思う。

 だが、逃げ方がよくなかった。平然と15億円の保釈金をないものにし、米陸軍特殊部隊グリーンベレーの元隊員らの助けでプライベートジェットを使って脱出したらしい、などという、一般人にはまねのできない豪華さが彼の主張を聞こえなくして「進歩的」メディアの擁護も受け入れられなかった。

 マスコミの対応が対照的であったのが、「モリカケ問題」だろう。国有地の大幅値引き売却や、獣医学部新設をめぐる忖度(そんたく)が指摘され、籠池(かごいけ)泰典被告や学校法人「加計(かけ)学園」の加計孝太郎理事長は甘い汁を吸ったのではないかとの妬みが冷静な議論をかき消し政権の支持率を一時、落ち込ませるに至った。味をしめた野党は今度は「桜を見る会」問題に執着したが、むやみに批判を繰り返しているように思えてならなかった。

 ひとが妬みの感情を抱くには、いい思いをしたであろうと思う人物の顔が見えていなくてはならない。はっきりとイメージできるゴーン被告などとは違って、どこの誰かも定かではない首相の後援会の多数のひとたちがコネで優遇されたなどといわれても嫉妬が喚起されるとは思えない。

 たとえ国民の嫉妬をかきたてることに成功し、いい思いをさせた人物(首相)の評価が下がったところで、批判した側(野党)の好感度アップにつながらないことにも留意する必要があるだろう。

 感情に取り入るのではなく理性に響く主張が、政治にもメディアにも求められているのだと私は考える。

【プロフィル】正高信男

 まさたか・のぶお 昭和29年、大阪市生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了。学術博士。専門はヒトを含めた霊長類のコミュニケーションの研究。

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