PR

ニュース コラム

【日曜に書く】論説委員・山上直子 万葉学者の墓じまいに学ぶ

 「暑さ寒さも彼岸まで、いうてな。お墓参りのころに必ず暖こうなるんは、ありがたいことやなあ」

 少し寒気が戻った夜、奈良・東大寺二月堂のお水取りに出かけ、よく聞いた祖母の言葉を思い出した。冬の寒さも夏の暑さもお彼岸、つまり春分・秋分の日まで。その後はずいぶんしのぎやすくなる。暖冬の昨今、実感することは少なくなったが、お水取りが終わると関は春とお彼岸がやってくるのだ。

 最近、墓地を歩くと、高度経済成長期には増える一方だった墓が少しずつ減っていることに気づく。いわゆる「墓じまい」だろう。

◆変わりダネの本

 そんな折も折、「こんな本を出します」と、万葉学者で知られる奈良大教授の上野誠さんから著者校が届いた。今月末に発刊予定という。

 てっきり専門の万葉集か、今年編纂(へんさん)1300年を迎える日本書紀関連かと思ったら、いっぷう変わったタイトルだ。

 『万葉学者、墓をしまい母を送る』(講談社)

 墓じまいをしたり、親を送ったりする話ならハウツー本から日記、小説まで山ほどある。それらと一線を画し、考えさせられつつあっというまに読んでしまったのは、著者が日本の歴史や思想に精通した文学者だからだった。

 たとえば、故郷である福岡県朝倉市に残っていた葬儀の風習と死生観。死と葬送の文化である万葉挽歌を通じた考察。そして、葬送儀礼における柳田国男と折口信夫の考え方や、万葉歌人・大伴旅人の現世肯定思想-と、てんこ盛りで興味深い。

 自身は始めと終わりに「死と墓をめぐる心性の歴史」と書いている。その個人的な体験から、死と葬儀、戦後社会の変化、介護と墓の問題へと思考をめぐらせた小さなルポ的歴史に、考えさせられることが多かったのである。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ