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【大阪特派員】山上直子 頭と体に効く講談塾

神田松之丞改め六代目「神田伯山」さん=東京・新宿の末広亭
神田松之丞改め六代目「神田伯山」さん=東京・新宿の末広亭

 「その『断る!』ってとこ。もっとハッキリとな」

 「『まあ、お待ち』、からは少(すこ)おしやわらかく。母親の(セリフの)とこな」

 ここは大阪のレトロな街並みが残る空堀(からほり)と呼ばれる地域(大阪市中央区)。ちょっと変わったその名前は、大阪城の外堀、水のない堀からきたもので、大坂冬の陣の後に埋められた…と聞けば、歴史の薫りも漂うというものだ。

 その一角にある小さな稽古場に響くのは講談。ネタを読む生徒の大きな声と、師匠の四代目旭堂南陵さんが稽古をつける静かな声だった。

 大阪で講談を習う人が増えているという。

 「え? 聞くのではなく習うんですか? それも素人さんが?」

 思わず確かめたのは、このところの講談ブームゆえだ。東京では、先ごろ真打ちに昇進した講談師、松之丞改め六代目神田伯山さんの活躍と人気ぶりがちょっとした社会現象になっている。大阪でも講談ファンが増えているのは確かで、そのことが頭にあって混乱したのだった。

 訪ねたのは「旭堂南陵講談塾」の稽古場。主婦のほか学生やサラリーマン、OLらがひっきりなしに入れ代わり立ち代わり訪れて、稽古を求める“生徒さん”らでにぎわっていた。

 「う~ん、ここ3、4年くらいやろうか。随分前から教えてるけど、5人くらいやったのがあっというまに増えまして」と苦笑する南陵さん。稽古日も週に1回、平日の夜だったのが、夕方からになり、主婦も増えて昼からになり…。2年ほど前から日曜日にも開くことになった。

 システムはいたってシンプル。師匠がいる間、好きな時間にきて、ネタを読んで指導を仰ぐ。入会金や資料代もなく、1回15分ほどのマンツーマンだ。稽古をつけてもらって千円ぽっきり。年齢層は20代の若者から80~90代まで千差万別で、学生(とそれに準じる若者)は無料という。

 まだ始めたばかりという22歳の女性がいた。芝居の勉強中で「滑舌が大事かなと思って。それにいろいろな人がいて楽しいです」と笑う。稽古しているのは初心者がまず習うという「三方ケ原の物見」。武田信玄と徳川家康・織田信長の連合軍の戦で物見(偵察)に出た武将の話だ。

 独特の抑揚とリズム、難解な言葉、そして発声の力と体力。登場人物を演じ分けながら筋も語るという講談の難しさと面白さを、素人の稽古だからこそ実感する。

 「高齢でね、ちょっと記憶が怪しくなってきたなんていう人も、随分改善したらしいですよ」と耳よりな話も。

 考えてみれば、そりゃそうだろう。壮大な歴史やドラマチックな物語を大きな声で“読んで”いく。合戦あり、立ち合いあり。身ぶり手ぶりも加わって、これがアタマやカラダに刺激を与えないわけがない。さらに稽古に熱が入る訳があった。年に何度か定期的な発表会があるからだ。ある日曜、出かけてみた。

 受付でもらったプログラムには「本能寺の変」「安倍晴明伝」「龍馬と海舟」「利休と清正」「楠正成 赤坂城合戦」など-。歴史好きにはうれしいタイトルがずらりと並ぶ。演者はといえば、着物やハカマでばっちり決める人もいれば、洋服あり、正座ができずイスに座って務める人も。この日は約25人が高座に上がった。いやこれがまた、なかなかうまい。ほんと。

 聞くのもいいが、自分でも読んでみたい、そんなふうに思うのは関西人気質だろうか。いや、岐阜から稽古に通うつわものもいたっけ。

 「教えることで私も教わる。ネタも増えます。うれしいことです」と南陵さん。裾野が広がっているのは確かだ。(やまがみ なおこ)

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