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【朝晴れエッセー】記念のスプーン・1月1日

 かれこれ40年も前のこと。ある企業のハンドボールチームの監督時代、以前から目に留まっていたW大学の選手を補強した。しかし入部後、初めての試合で左膝の半月板を損傷した。

 入院先の病院に見舞った私に、涙ながらに「医師からもう運動は無理だ、と言われました。期待に応えることができず、申し訳ありません。いろいろ考えましたが、退職させていただきます」。

 「まあ、待て。他の病院で診てもらえば、何らかの方法があるかも…」。

 それから数カ月後、夕方の練習グラウンドの片隅に、左膝半月板を完全除去し、凍るような冬の夜も、蒸し暑い夏の夜も、マシン相手にひたすら膝の筋肉強化に励む彼の姿があった。

 この姿は修行僧のごとく、静かな中にも“ほとばしる”熱量は、周りの選手ひとりひとりに伝播(でんぱ)し、チームをひとつ上のステージに押し上げたように思う。

 それから数年後、彼がロサンゼルスオリンピックの選手団に選ばれたとのうれしい知らせが届いた。

 各チームのエース級が集う中、けがでチームのレギュラーとは言えない選手がなぜ?

 後に、Japanの監督に「なぜ」を問うた。

 「人数の関係で選手登録はできなかったが、アジア予選をともに戦った仲間であり、けがを負いながらハンドボールにかける彼のひたむきな姿勢は、オリンピックチームの精神的な支柱として力を貸してもらいたいと思いました」

 その彼が、ロスオリンピックの記念に買ってきてくれたスプーンセット。終活でほとんどのものを処分したが、彼の血と汗の結晶のこの品は、処分できない。

三浦孝 76 埼玉県所沢市

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