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【朝晴れエッセー】やさしい時間 全国から力作 一日の始まり応援

母の足音
母の足音
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 ■4月の月間賞 『母の足音』

 「トン、トン、トン」「ダッ、ダッ、ダッ」「ゴロ、ゴロ、ゴロ」

 2階で母の足音や戸を開け閉めする音が聞こえる。

 「ああ、生きてる、生きてる」と思う。

 3年前の秋、父が亡くなった。2人暮らしだった家に、母は一人ぼっちになった。

 80歳を過ぎた母と同居することにした。15年ほど前に、父の好みのまま建て替えた家。畳の部屋ばかりだった古い2階建ては、3階建てに生まれ変わった。私は、父が使っていた1階の部屋を頂戴した。

 住み始めてみると、驚くほど2階の音が響く。同居する前は、丈夫なマンションに住んでいた。上階の音などあまり聞こえなかった。母の足音の大きさにイライラして、もっと静かに歩くよう苦情を言った。しかし、長年の習慣をそうそう変えることなど到底無理。

 仕事が休みのある日、2階でまったく音がしないことに気づいた。「あれ? どうしたんだろう? もしかして倒れてる?」。あわてて2階に駆け上がった。

 こたつの上に置かれたラジオの声が聞こえている。その前にぽつんと座った母は、うっつらうつらと居眠りをしていた。目が見にくくなった母は、テレビではなく一日中ラジオの前に座っている。「な~んだ、よかった」と、思うと同時に騒音だった母の足音が、命の音に変わった。

 「ドシッ、ドシッ、ドシッ」

 今日も力強い足音が聞こえてくる。

 佐藤和心(かずみ) 54 大阪市住吉区

 お母さんに存在感があるのがいい。普遍的に共感する作品。日常生活から素材を拾ったエッセーの好例。

最後の親孝行
最後の親孝行
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 ■5月の月間賞 『最後の親孝行』

 今年はどこで咲いているのだろう。

 桜の花は、空から亡き人たちが舞い降りてきて咲かせているのだと何かで読んだことがある。だからこんなにも美しく、儚(はかな)いのだろう。

 末期がんだった母と同居するために選んだこの家は、窓から公園の桜がよく見える。「春には、家でお花見ができるね」。そう話しかけたとき、母は悲しそうに笑い返事をしなかった。もうここから桜を見ることはないだろうとお互いわかっていたけれど、私はそれを認めるのが怖くて、一緒に見る桜に希望をつないだ。わずか1カ月だったが一緒に暮らせた時間は大切な宝物になった。

 新元号が発表されたよく晴れた春の日。「よし。今日しかない」とずっとあの日のままだった母の部屋の片付けを始めた。最後に着ていた服を洗濯し、桜の花びらが時折舞い散ってくるベランダに干すと、母の姿がそこにあるようで涙があふれた。

 「やっと一緒にお花見ができたね」。ハンガーで揺れる母の服を抱きしめた。「ありがとう。お母さん」。満開の桜と青空を見上げると、不思議と悲しさよりもすがすがしさで胸がいっぱいになった。

 遺品整理は最後の親孝行だという。始めたくても、悲しみがあふれて手が付けられなかったけれど、やっと一歩踏み出せた。

 諸行無常。新しい時代が始まっていく。母の分も、幸せに生きていくことが何よりの供養であり、親孝行なのかもしれない。

 斉藤悦子 54 東京都足立区

 映像が目に浮かぶ。筆者が涙をこらえている感じが共感を呼び、余韻を味わわせてくれた。

自分の立ち位置
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 ■6月の月間賞 『自分の立ち位置』

 自分の視界に入るのは、いつも同じ景色だ。

 僕は生まれつき右耳が聞こえない。だから、教室の座席でも右側の前2列しか座ることができない。そして、僕は同じ景色しか見ることができない。友達としゃべったりするときも、僕は友達の右に立つ。

 もちろん、不自由な所もある。例えば、前述のように、自分の行動範囲が少し制限されることや、かくれんぼなどでは特にそうだが、みんなは音をたよりに進むことがある。しかし、僕にはそれができない。なぜなら、音がすべて左からなっているように聞こえて、音がどこからなっているか分からないからだ。

 このように不自由な所があるが、僕は特に気にしていない。なぜなら、友達と遊べるし、笑い合うこともできる。授業も受けられる。先生に怒られたりもする。幸せじゃないか。友達に呼ばれたときに、どこから呼ばれているか分からないときなどは「両耳聞こえたらな~」と思うときもある。しかし、左耳しか聞こえないのは僕の個性だと思う。

 周りから見た僕の「立ち位置」はいつも同じかもしれないが、つながりの面で見た僕の「立ち位置」はいつもみんなと楽しくしゃべって、いつも同じではなく、いつも違うところにいると思っている。僕はその「立ち位置」が好きだ。なぜなら、友達は、僕としゃべったりするとき、しれっと、左へ行ったりしてくれて、そういう友達の良い所がたくさん見られて、僕もうれしくなるからだ。

 坂本英侑(ひでゆき) 14 大阪府藤井寺市

 友人の優しさをくみ取る観察力がいい。自分でも気づかなかった心の内をうまく言葉にしている。

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