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【記者発】人生100年時代の新人作家 文化部・海老沢類

第65回江戸川乱歩賞の贈呈式で、選考委員の京極夏彦さん、湊かなえさんらと写真撮影に応じる受賞者の神護かずみさん(中央)=9月26日、東京都千代田区
第65回江戸川乱歩賞の贈呈式で、選考委員の京極夏彦さん、湊かなえさんらと写真撮影に応じる受賞者の神護かずみさん(中央)=9月26日、東京都千代田区

 「年齢を感じさせない旺盛な創作意欲で執筆していただけるのでは」-。今秋、公募ミステリー賞の最高峰といわれる江戸川乱歩賞を史上最年長で受賞した神護(じんご)かずみさん(59)は、選考委員からそんな激励を受けた。出版歴はあるもののヒットには恵まれなかった神護さん。35年勤めたメーカーを昨年早期退職し、ネット炎上などのトラブル解決を担う女性を主人公にした受賞作「ノワールをまとう女」(講談社)を集中して書き上げた。還暦目前になって遅咲きの花が開いた。「長く芽が出なかった分、憤怒や恨みの蓄えはある。これは作品を書く上で必ず力になってくれる」と、神護さんはユーモア交じりに語る。

 平成末から令和へと至る文芸シーンを振り返るとき、思い浮かぶのはこうした遅咲き作家の活躍だ。人生100年時代といわれる高齢社会を反映するように、著名な文学賞の「記録」がいくつも塗り替えられた。平成25年には当時75歳だった黒田夏子さんが芥川賞を史上最年長で受賞。綿矢りささんら早熟の才能を送り出してきた文芸賞を、29年に最年長の当時63歳で射止めた若竹千佐子さんのデビュー作はその後、芥川賞も受けた。

 ある出版社の編集者は「書きたいことがあっても働き盛りの40代では執筆時間を取りにくい。仕事が一段落したころに長年の思いを形にする人が多い」と話す。「読書の習慣が根付いていて文章がうまい。若い人に比べて実体験も豊富」とシニア層の強みを指摘する関係者もいる。

 そういえば、作家の村上春樹さん(70)が今月17日に東京都内で行われた朗読イベントで語っていた。

 「書いているとき、僕は『書いています』とは(周囲に)絶対に言わない。締め切りは嫌い。だから締め切りのある仕事はしないんです」

 世界的な人気作家だから貫ける流儀ではある。でも作家デビュー前の人も、村上さんと同じ“ぜいたく”が許されているのだ。頼みは「書きたい」という自身の情熱で、プロのように仕事の依頼はないから締め切りもない。そんな適度な自由を感じつつ、この年末もきっと多くの作家志望者が原稿に向かっている。世の中の中高年層を勇気づける痛快なデビュー作に出会えるのが今から待ち遠しい。

【プロフィル】海老沢類 平成11年入社。横浜総局、福島支局郡山通信部、東京本社整理部、社会部などを経て文化部。現在は文芸関係の記事を主に担当している。

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