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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】心付け 12月23日付

 今年は、池波正太郎の『剣客商売』にどっぷり浸かった。4月初旬からずっと文庫版全16巻を繰り返し読んだ。面白いのだ。

 令和元年を生きつつ、気分は毎日江戸人。浅草、上野、深川…。秋山小兵衞にくっついて、江戸の町をあちこち歩いた。誰よりも強いし、金離れはいいし、小兵衞を囲む秋山ファミリーも、皆、個性豊かで生き生きとしている。ある種のホームドラマを見ているような楽しさに浸った。

 池波さんは、読み手の興味を初めの1行で喚起する。

 季節感は短い言葉でさりげない。

 そして人生の真実を平易なセリフに込める。

 「うまいなー」と思ってしまう。

 「何のために生きねばならぬのか?」と迷う相手には、「それが分かるまで生きてみなさることじゃ」と小兵衞。

 「人の世というものはつじつまの合わないことだらけでござんすね」と弥七親分。納得の余韻は深く静かだ。

 一つだけ真似をしてみたいことがあった。小兵衞が何かにつけてよくしていた「心付け」というチップだ。

 大金はもとより、小金すら満足に持ち合わせてない身が、人様に「心付け」など笑止千万。

 が、不思議に舞台が整った。

 相手は、ピザ配達可能ぎりぎり圏内のわが家に、時間を守り、熱々のピザを届けてくれたお兄さん。

 代金とは別に小袋に入れた「心付け」を渡した。

 「今日は特別な日だから」というと、キョトン顔が笑顔にかわった。

塩井節子 69 栃木県宇都宮市

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