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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】母の掌(てのひら)・12月18日

 毎月2回、新幹線と在来線を乗り継いで、施設に入所している両親に会うために、私は故郷に帰省している。

 93歳の父は、車椅子ながらしっかりしており、私の訪問を喜んでくれるが、84歳で認知症の母は私が誰だかわからないこともある。

 子供時代戦争を体験し、思春期には母親を心臓病で亡くし、父と結婚してからは舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ)、5人の小姑とずっと同居してきた母。私は幼い頃から、母の苦労話を繰り返し聞かされた。

 しかし母は、持ち前の負けん気で一念発起し、保険の外交員になった。昭和の右肩上がりの時代が幸いしたこともさることながら、人情に厚く、思い込んだら命がけのサービス精神で、トップレディの営業成績をずっと維持したという。そんな武勇伝を語る母の顔は、本当に輝いていた。

 短期で癇癪(かんしゃく)持ちで欠点の多い人であるが、陽気で、いつも「忙しい忙しい」と言いながらも、ここぞというとき、体を張って必ず子供たちの味方になってくれた母。

 「お母さん、来たよ」と声をかけると、今はほほえみながらその掌で、私の髪や頬を撫(な)でてくれる。もう言葉を忘れた母だが、その掌が触れると、私が抱えていた悩みや理不尽な思いがすーっと流れていく。

 お母さん、とうていあなたに及ばないけど、私も夫の両親と同居し、介護してるよ。仕事、農業、地域の活動と残りの人生を私なりに前向きに頑張っているよ。そしてあなたのように、掌だけで私の子供たちを癒やせるようになりたいと思うよ。

 お母さんここがあなたの指定席私の胸の 心のまんなか

藤井 典子 60 山口県美祢市

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