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【風を読む】通商の無秩序広がる現実味 論説副委員長・長谷川秀行

 令和2年の元日は世界貿易機関(WTO)が設立されてからちょうど25年という節目の日である。だが、とても喜べそうにはない。WTOの紛争処理制度が機能不全に陥ったからだ。「二審制」の手続きのうち「最高裁」に当たる上級委員会の欠員が埋まらず、審理できなくなった。周知の通り、WTOに不満を持つ米国の反対で新委員を選任できなかったことが原因だ。

 このまま上級委が動かないと、世界の通商秩序はどんな姿になるのか。あえて最悪の展開を想像してみた。

 まず考えられるのは、従前にも増して米国がWTOを無視することだ。WTOルールではなく、米通商法などの国内法で他国を一方的に制裁する。この傾向が強まることはあり得よう。

 もしかすると、米国は国内法だけでなく、むしろWTOルールを活用して反ダンピング(不当廉売)関税や相殺関税を乱発するかもしれない。

 米国のWTO不信の根っこには、中国などのダンピング輸出に対し、こうした対抗措置を講じても、逆にWTOに訴えられて負ける例が多いことがある。米国のダンピング算定方式が認められないことなどが敗因で、オバマ政権時代からこれを問題視していた。

 だが、上級委の機能が止まったままなら、1審の紛争処理小委員会(パネル)で負けても大丈夫だ。上級委に上訴しておけば、その審理が終わらないかぎりパネル判断が採択されることはないからだ。WTOに訴えられても痛くもかゆくもないのである。

 これは他国にもいえる。特にWTOでの紛争処理が増えている中国は要警戒だ。中国は国営企業への不当な補助金や、過剰生産した鉄鋼製品の安値輸出などが絶えず批判されてきたが、ますます野放しになるかもしれない。

 きまじめにルールを守ろうとする日本にとってはやっかいな展開だ。米国のように国内法で他国を制裁しようにも、似た制度を持つ欧州連合(EU)やカナダと違い、日本にはそのための法律がないからどうしようもない。

 よほど上級委の機能不全が長引かないかぎり、これほどの無秩序とはならないと思いたいが、今の時代は何が起きてもおかしくない。日本ばかりが煮え湯をのまされないよう、異常事態を早急に打開しなければならない。

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