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【朝晴れエッセー】たかが鬘されど鬘

 3月後半にステージIIIのがん(悪性リンパ腫)との宣告を受けた。

 それほどショックはなく、点滴での抗がん剤治療を始めた。2人に1人が罹患(りかん)する昨今であり、いよいよ自分の番かと覚悟した。40、50代なら辛いが、人としてなすべきこと、また、したいことはおおむね終えた、という思いも冷静にさせた。

 6回の投与予定で2度目から外来だった。当初の2週間の入院中は、抗がん剤の副作用もなく、運動を兼ねて病院を歩き回っていた。退院後も幸い、倦怠(けんたい)感、食欲不振…といったこともなく、仕事も再開した。

 3回目投与の翌朝だった。枕に異様な量の頭髪がついているのに気付いた。恐る恐る手ぐしですくと、指の間に大量の毛髪がついていた。予期はしていたが、ショックだった。

 顔面蒼白(そうはく)だったと思う。普段から中身はともかく、両親、ご先祖に感謝していた頭である。すぐに一休さんのようになると思い、医療用ウイッグ、つまり鬘(かつら)を買いに走った。普段、男が鬘なんて、と思っていたが、自分のこととなれば別だった。

 7月に最後の投与を終え、検査すると腫瘍は画面上、消滅していた。完全寛解であり、内心、ガッツポーズだった。

 11月には妻から丸刈りの高校生、怖い親分さん、と揶揄(やゆ)されたが、自分では高倉健のようだ、と鬘を取った。

 半年間お世話になり、おかげで堂々と息子の結婚式でもあいさつできた。

 今、もう二度と使わないことを祈りつつ、床の間に鎮座している。

 福地隆治(69) 大阪市東住吉区

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