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【朝晴れエッセー】恩返しのバトン・12月13日

 スーパーから少し離れた路地で、老婦人が荷物を手に立ち往生していた。くの字に曲がった腰をさすりながら、縁石に腰かける姿に、私は勇気を出して声をかけた。

 「荷物をお持ちしましょうか?」

 10年前の夏の暑い日、私は3歳の娘を連れて、無人駅で立ち往生していた。持ってきた水筒のお茶は残り少なく、次の電車も1時間半後しか来ない。駅舎のベンチに腰かけながら途方に暮れていたところ、ある中年の女性が声をかけてくれた。

 「どこまで行くの?」

 「隣のS駅ですけど」と答えると、女性はこんなところで待っていたら、暑くて娘さんも大変だろうから、近くに行くついでに車で乗せていってあげる、と提案してくれた。最初は申し訳なくて遠慮したものの、このまま駅舎で待っていては、子どもが熱射病になるかもしれないと思い、ありがたくご厚意に甘えさせて頂くことにした。

 車の後部座席に乗せてもらい、世間話をしながら、どうしたらこの女性に恩返しができるか必死に考えた。やがて車がS駅に着くと私は、

 「本当にありがとうございました。何かお礼をしたいのですが、何をしたらいいでしょうか?」と頭を下げた。すると女性は、「困ったときはお互いさま。私に恩返しをと思うのなら、いつか困っている人を助けてあげて」。そう言って何も受け取らず、笑顔で去っていった。

 老婦人の荷物を家まで運ぶ手伝いをしながら、ふとあの夏の日の出来事を思い出した。恩返しのバトンは、まだ私の手の中にある。

林 真由美 45 群馬県渋川市

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