PR

ニュース コラム

【朝晴れエッセー】実家の庭・12月12日

 主(あるじ)が亡くなった実家の片隅に、小さな庭がある。晩年、植木屋をしていた父に少しだけ剪定(せんてい)の仕方を教わっていた私は、今でもせっせと手入れに通う。この庭にはエピソードがあった。

 竹材業を営む父が、一時、懇意にしていた植木職人がいた。一人暮らしで風貌はみすぼらしく、タバコさえあれば食事もとらずに黙々と仕事をこなし、その日当さえ多すぎる、と突き返すほどの変わりよう。

 だが、その腕前はピカイチで、彼でなくては、という固定客がたくさんいた。父も大いに信頼し、一緒に仕事をしていたのだが、ある日些細(ささい)なことで仲違いをしてしまい、長い間音信不通になっていた。

 そんな折、阪神淡路大震災が起こり、実家も大きな被害は免れたものの、倉庫の材料や道具などが崩れて道路にまで散乱し、途方にくれていたとき、二駅離れたところに住むその植木職人が、歩いて手助けに来てくれたのだ。そして片付けが終わった後、ついでに、と作ってくれたのがこの庭である。

 ところがその後、まるでお別れを告げに来たかのように、自宅でひっそりと亡くなっていたことがわかったのだそうだ。

 季節ごとにささやかな彩りを見せてくれるこの庭を、これからも大切に守りたいと思う。

 父とその偉大な植木職人さんとの友情を枯らさないように。

菊地 章子 59 埼玉県新座市

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ