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【風を読む】悪には心がありますから 論説副委員長・別府育郎

山本昌平さん
山本昌平さん

 俳優の山本昌平さんが亡くなった。81歳だった。生涯、悪役を通した。

 「青春だった」というピンク映画で会社と衝突して船に乗り、陸に上がって再び役者となった。ヤクザ者、殺人者、時代劇、SF戦隊ものなど、あらゆるドラマで悪役を演じてきた。

 一時期、近所に住んでいた。役柄から眉を剃(そ)っているときなどは凶相ともいえ、深夜の自動販売機などで顔を合わせると悲鳴を上げたくなった。

 「1千人ぐらいは殺したでしょうか。同じくらい殺されてもいます。殺されて初めて山本昌平という役者は生きるのです」。そう話していた。

 別の顔もあった。野口雨情の「赤い靴」の世界に魅入られ、自ら書いた脚本の2人芝居で全国を回った。横浜の港から異人さんに連れられて行ったはずの童謡のモデル、きみちゃんが実は東京・麻布十番の孤児院で亡くなっていたと、後に聞いた。同所に平成元年2月、「きみちゃんの像」が建てられてからは毎年の納涼祭りで山本さんがハーモニカで「赤い靴」を吹いた。

 阪神大震災ではハーモニカ1本を持って被災地の老人ホームを慰問した。涙を流して喜ぶ老人らの姿をみて、ハーモニカによる慰問先は全国に広がった。聴かせてもらったことがある。山本さんのハーモニカは音楽家のそれではなく、役者の芝居であり、語りだった。例えば雨情の「しゃぼん玉」を吹けば、生まれてすぐに、こわれて消える、しゃぼん玉の映像が浮かんだ。

 慰問先では必ず去り際に、老人らに「この顔は、この場限りで忘れてください」とあいさつした。目の前の笑顔が脳裏に残っては、老人らが楽しみにする「水戸黄門」などの時代劇で悪代官を演じても、心の底から憎み嫌うことができなくなってしまう。それは、悪役の本望ではないからと。

 なぜ悪役にこだわるのか、聞いたことがある。「善の字には口しかありませんが、悪には心がありますから」

 善人を演じる夢もあった。忠臣蔵の敵役だが地元では善政で知られた吉良上野介。「悪役を極め尽くして最後に善人の吉良を演じる。この世で難しければ、生まれ変わっても役者を続け、いつか、私の思う吉良をやりたい。そのための悪役修業でもあるのです」

 いつかは、次の世で。

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