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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】鳴らない電話・12月7日

 「この電話番号だけは忘れへんで」

 父は、私の家の電話番号を言いながら、にやっと笑った。

 近所に住んでいたので、私と毎日のように会っていたはずなのに、夕方になると、

 「子どもたちは帰ってきたか」「ごはんは食べたか」と電話がかかってくる。

 「忙しいときにうるさいな」と出ないこともたびたびあった。それでも私が出るまで電話は何度も鳴っていた。

 挙げ句の果てには留守電のアナウンスに向かって、「娘と代わってください」と懇願。これには思わず大笑い。

 父は必ず留守電を残す。しょうもない内容だが、電話の回数だけ伝言はたまり、父のものでいっぱいになることも多々あった。

 あまりの電話攻撃に嫌気が差し、電話番号を変えようかと真剣に考えた。でも、連絡が取れなくなることが淋しくてできなかった。

 意識がなくなる前日、一緒にスイカを食べたときに言った、あの台詞(せりふ)。次の日には昏睡状態で、もう話はできなくなっていた。

 父が亡くなり、4カ月。

 電話はもうほとんど鳴らない。あんなにうるさかった電話の呼び出し音が全く鳴らない。電話が静かであることを望んでいたはずなのに、いまでは鳴らないことがこんなに淋しい。

 いまでも消去することのできない父の留守電。あんなに嫌だった父からの電話が待ち遠しい。電話が鳴ると一瞬ドキッとして、「もしかしたら」と急いで電話に出てしまう。

 お父ちゃん、今でも電話番号覚えていますか。また、天国から電話してきてね。お父ちゃんの声が聞きたいです。

岸本和代 57 大阪市阿倍野区

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