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【日曜に書く】若冲はウミテングを見たか 論説委員・山上直子

 「謎です。若冲(じゃくちゅう)のあの絵は、京都の錦小路だけでは描けなかったと思うんです」。クニマスの発見で知られる京都大学名誉教授、中坊徹次さんに聞いた話がずっと気になっていた。冊子「魚好きやねん」(東海大学出版部)に「若冲〈群魚図〉の謎」という題で書いている。

 伊藤若冲(1716~1800年)はご存じ江戸時代の京都の画家で、錦の裕福な青物問屋に生まれた。近年、国内外で若冲ブームを巻き起こしている。

 魅力の一つがニワトリをはじめとする生物の絵だ。代表作「動植綵絵(どうしょくさいえ)」30幅のうち、魚やタコなど海の生き物を描いたのが「群魚図」。まるで図鑑のような2幅である。

 ◆リアリズムと模写

 マダイやトラフグ、カツオなど、見るからにおいしそうな魚が並ぶなか、中坊さんが目を留めたのはネコザメやアカシュモクザメなど、あまりなじみのない魚だった。若冲は錦の魚屋に並ぶ魚を描いたとされるが…。

 「若冲の絵は当時としては精緻で種名の特定ができるんです。でも例えばアカシュモクザメは子供でも1メートルはある。江戸時代の錦とは結び付かない」

 なるほど。現代の錦市場でも考えにくいが、当時の京都ではまず見ることはない魚だろう。

 「でもね、模写の可能性は考えられるんですよ」

 若冲ははじめ狩野派を学び、それに満足せず、庭にニワトリを放って徹底的な観察と写生を試みたという。そのリアリズムはやがて草木や虫、魚類などへと対象を広げていく。ただし、見ることができないものは模写した。虎を描いた「猛虎図」に〈実際に見ることができないものは描かないが、虎を描こうとすれば日本には生きた虎はいないので描かれた虎を見て描いた〉という文がある。

 中坊さんによると、前述のサメなどは、高松藩主・松平頼恭(よりたか)が作らせた日本最古の魚類図鑑とされる「衆鱗図(しゅうりんず)」(宝暦年間)に類似の絵がある。若冲は同時期、金比羅宮奥書院の障壁画を描くため琴平にいた。

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