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【日曜に書く】小さな出版社、孤高の戦い 論説委員・森田景史

ぶれない軸

 『アングロサクソン-』の連載は、没後に載った平成29年7月のものまで含めて計534回にのぼる。これまでの9巻で計380回分を収め、残り4冊分にこぎつけた。他の株主は岩崎さんの報告に黙って耳を傾けてくれるが、第9巻の発行は600部にすぎず、採算は合わない。最近は半ば冗談、半ば本気で言われていることがある。「あなたが生きているうちはいい。いなくなったときは看板を下ろす」と。戦いは時間との勝負でもある。

 「完結させてから先生のところに行きますよ」と微苦笑する老編集者の言葉も酔余の冗談には聞こえない。何となくしんみりしたところで酒席はお開きになり、2人で店を出た。少し後ろから付いて歩き、雨まじりの夜空に真っすぐ伸びた背中に感心していると、前を行く人は静かに切り出した。

 「コマはどれだけ膨れても回り続ける。ぶれない軸があるからですよ。中心を軸が貫いているからですよ」

 「知の巨人」への賛美…。それだけではないような気もする。硬骨の老編集者が自らに当てたきついムチではなかったろうか。あと4巻。孤高の戦いの行く先を見届けようと思う。(もりた けいじ)

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