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【日曜に書く】小さな出版社、孤高の戦い 論説委員・森田景史

 6歳差の2人は不思議と馬が合ったらしい。岩崎さんは定年退職を機に、著作群をまとめた本の再出版を持ちかけ、渡部さんから二つ返事で同意を得た。「埋もれさせたらもったいない。全集を作るつもりでやらせてほしい」と伝え、首を縦に振らせている。有志8人が出資し「広瀬書院」を起業したのは平成23年10月15日、渡部さん81歳の誕生日だった。社名は日露戦争で没した「軍神」、広瀬武夫中佐の武勇にあやかった。

風雪に耐える名文

 翌年夏から年1、2冊のペースで出し続ける『アングロサクソン文明落穂集』は、同じタイトルで月刊誌『英語教育』(大修館書店)の昭和46年1月号から続く連載を一からまとめたものだ。英語学の大家として、膨大な量の研究と15万冊に及ぶ自宅の蔵書に裏打ちされた知識の泉ともいえる名文の数々は、風雪の中でも古びることを知らない。以前から取りまとめて刊行したいと考えていた。

 大修館書店も以前に同じ作業を試みたものの、なぜか1冊で止まってしまったという。岩崎さんが編集作業を始めて気付かされたことがある。原稿を改めて校正してみると誤字脱字が所々にある。

 渡部さんは生涯、原稿を手で書くことを譲らなかった。「タイプを学ぶ時間があれば、私はもっと本を読む」と母校、上智大の卒業論文でさえ手書きし、アルバイトを雇ってタイプで打ち直させたという。「先生の字はくせがありました。編集者が苦戦したということでしょう」。岩崎さんも毎回手を焼いている。

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