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【記者発】「雨ニモマケズ」の教え 大阪総局・小野木康雄

 台風19号の影響で、馬小屋が浸水するなど馬も飼い主も被害に遭った=10月20日、福島県相馬市
 台風19号の影響で、馬小屋が浸水するなど馬も飼い主も被害に遭った=10月20日、福島県相馬市

 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」は黒革の手帳に書き留めてあった。詩の体裁になっているが、生前に発表された作品ではなく、賢治自らが理想とする生き方を個人的に記したものだった。

 「南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ」。そのくだりがあるページには、いったん「シヅカニ」と書いてから「行ッテ」と修正した跡や、本文とは別に赤字で「行ッテ」と記した箇所がある。

 「賢治は『行ッテ』という言葉を大切にすることによって、行動の重要性を伝えようとしたのです」。龍谷大文学部の鍋島直樹教授(真宗学)は、そう話す。

 仏教の視点から賢治の死生観を研究してきた鍋島教授は、浄土真宗本願寺派の僧侶でもある。平成23年の東日本大震災では、発生直後に救援物資を積み込んだ車を運転し、関西から東北へ向かった。以来、宮城県南三陸町や気仙沼市などで住民らと交流を深め、心のケアに当たる宗教者の専門職「臨床宗教師」の養成研修も行っている。

 災害が起きると、いてもたってもいられず被災地にはせ参じる宗教者は少なくない。布教や勧誘が目的ではない。かけがえのないものを奪われた人々に、たとえ何もできなくても、寄り添う。自然の脅威を前に、ただ涙を流しおろおろ歩くとつづった賢治の姿と重なる。

 心のケアという言葉のイメージとは異なるかもしれない。だが、ケアの原点は苦悩に耳を傾ける「傾聴」だ。だれかに語ることで、人は回復する力を得る。応急措置や生活再建に追われる被災初期にも欠かせない営みである。

 東日本を中心に甚大な被害をもたらした台風19号も、26日で2週間という今こそ、そうしたことに目を向ける時期だといえるだろう。

 多くの市民とともに僧侶や牧師らがボランティアとして被災地に入っていると聞く。最初は泥出しや片付けなどが中心でも、住民との会話から苦悩が漏らされることはあるはずだ。宗教者はいつも命をめぐる問題と向き合っている。悠久の時間軸で物事をとらえる資質を持っている。褒められもせずとも、現地に「行ッテ」、自発的に起こす行動が被災地支援の幅を広げている。

                   ◇

【プロフィル】小野木康雄

 平成10年入社。大阪社会部、京都総局などで過労死や宗教を取材し、貧困ジャーナリズム賞2012を受賞。現在は関西広域面の統括デスク。

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