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【記者発】夏の終わりの異世界に思う 整理部・森山志乃芙

台風19号の影響で、氾濫危険水位に達した多摩川=令和元年9月12日午後、神奈川県川崎市(佐藤徳昭撮影)
台風19号の影響で、氾濫危険水位に達した多摩川=令和元年9月12日午後、神奈川県川崎市(佐藤徳昭撮影)

 子供のころ、夏といえば洪水だった。

 実家近くの小さな川は、少しの雨ですぐあふれる。雨の夜に祖父が目を覚ませば周囲で畳がぷかぷか浮いていた、川向こうでは舟を出した、とはよく聞かされた話だ。

 なので雨が降れば何度も川に行き、水位の上昇を確認しながら外に出ている物をしまう。ご近所さんに声をかけ、お年寄りしかいない家の手伝いをする。川があふれた翌日は学校を休んでいいというのがわが家のルールだったので実に皆よく働く。そうして土手までブロック数個分に水が迫ったら氾濫が近い。速やかに作業を終え家にこもる。

 泡立つように雨が降りつけていた家の前の道は、いつしか静かな茶色い川になる。所々鈍い七色に光る水面を、するすると赤いビールケースらしきものが流れていく。ガードレールはもうとっくに、とっぷり水にのまれたようだ。

 見慣れた家々が水面に浮かぶ小さな島々になるその光景は、自分たちだけ世界から切り離されてしまったような、どこか違う世界に迷い込んでしまったような、夏の終わりの異世界だった。

 とはいえそれも昔のこと。ようやく実家の辺りも治水が進み、水害に悩む地域はなくなるかと思いきや、ここ数年の全国的な水害の多さはどうしたのだろう。数年に1度、数十年に1度といわれる異常気象が毎年のように起きている。今回の台風19号など、100年に1度の雨だそうだ。

 事件事故災害、どの記事に触れるときも胸が痛むが、水害はなじみがある分、つらい。孤立無援で雨に打たれ体が冷え心が冷えていく心細さも、大切なものが泥にのまれてしまうやりきれなさも、いかばかりだろうか。

 温暖化が進む中、変わる気候に沿った今まで以上の対策が必要なのだろう。「時代に合わない」と一時建設を中断されていた八ツ場(やんば)ダムの活躍を見るにそう思う。台風は減らせなくても、被害を減らすことはできるのだから。

 週明けて22日は即位礼正殿の儀。ご即位を公に宣明されるこの儀式をもって令和も本番となる。天皇陛下は「水問題」をライフワークとされている。「水」にゆかりをお持ちの新天皇の新時代、新たな治水計画で少しでも水害が減ることを、祈ってやまない。

【プロフィル】森山志乃芙

 平成14年入社。東京本社整理部、大阪本社整理部などを経て、27年から東京本社整理部。見出しにつけた「魔の2回生」は29年の新語・流行語大賞でトップテン入りした。

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