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ニュース コラム

【朝晴れエッセー】ヤマネ・10月16日

 野鳥用の巣箱の中で寝ているヤマネを発見した。うちは森の中にある。秋が来てスズメバチに巣箱を占領される前に、使用済みや未使用の巣箱は取り外すべく、まず玄関軒下のものを確認したところ、いたのだ。

 と言っても、直接見たわけではない。この巣箱にだけ、たまたま夫が内部上部に安いカメラを仕掛けておいた。カメラのケーブルをテレビにつなぐと、テレビ画面に、ぼた餅のようなものが映った。画像は白黒で粗いものの、ぼた餅の真ん中に、一本の黒い太筋がくっきり入っている。丸まったヤマネの背中だった。

 ヤマネは国の天然記念物で、生きた化石や森の妖精といわれる哺乳類だ。恐竜が絶滅した後に出現し、日本固有種は数百万年前から生息しているらしい。

 夜行性のその天然記念物が、丸めた体をモゾモゾ動かしたり、ちいさな手足を超高速で震わせ体を掻(か)いたりしている。手足を伸ばしてするあくびも、なんともかわいらしい。

 大昔、世界はきみたちのものだったねと思いながら、夫と二人画面にくぎ付けになっていると、大きな黒目をぱっちり見開いて、やにわに巣箱の壁を登ってきた。画面から顔が消え、胴体が消え、最後にふさふさ尻尾も視界から消えた。巣箱からはい出して森に帰っていったのだ。

 いつのまにか日は暮れていた。星はまだ現れず、樹々の影が静かに黒々と広がっている。ふだん見ている夜の森とはちがう気がした。そこに太古の森が口を開けているように感じられたのは、ヤマネのマジックだろうか。

常世ゆかり(55) 長野県南牧村

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