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【朝晴れエッセー】天国行のバスで・10月11日

 目の前をゆっくり曲がる路線バスをふと見ると、窓際の乗客の後ろ姿が妻そっくりで心臓の鼓動が早くなった。

 妻もまだ、バスに乗っているかもしれないがこれではないはずだ。

 かつての私は何もかも妻に甘えすぎていた。その妻がガンの手術を繰り返していた2年前、来世でも結婚してほしいと言うと「どうしようかな」と彼女は答えなかった。

 ショックだったが仕方ない。苦労ばかりかけた私が悪いのだ。

 とうとう妻が逝ってしまったとき、来世で出会えたらもう一度一からやり直したいと、メッセージを込めた花束を贈った。

 でも妻は素晴らしい女性だ。私が行くまでに誰かが近づくかもしれない。そこでお寺さんにお願いして、妻だけでなく私の戒名も付けていただき夫婦位牌(いはい)を作った。名前を変える必要があるなら二人一緒だ。永代供養も二人分を確保した。これでとりあえず夫婦のままだ。死亡届は出したが離婚届は出していないのだから。

 妻が冷凍していた刻みネギの中につながったものを見つけたときは、不意に涙が出た。妻はまだ家族なんだ。いつものように「こんなのがあった」と笑っている顔が浮かぶ。

 私たちは同じバスで人生を旅していたのに、病気で旅を続けられなくなった妻は、神仏の計らいで天国行きの乗り心地のいいリムジンバスに乗り換えただけだ。

 やがて私も後から追いかける。

 いや、もういつ乗り換えてもいいが、問題はこれだけ業の深い自分が、果たして天国行きのバスに乗れるかどうかだけだ。

相野 正 69 堺市美原区

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