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【朝晴れエッセー】改札口・9月10日

 「あら、どうしてわかったの?」。倉敷駅の改札口で父の顔を見つけたとき、私はちょっとびっくりしてそう言った。「もう2時間も待っていたんだよ」と改札係の人が話しかけてくれた。

 倉敷にある実家の近くから、夫の転勤で息子たちが小学校低学年で東京に越して以来、たびたび休みには帰省していた。いつも到着時間を連絡しておくと父が改札口まで迎えにきてくれていたのだが、35年前のその夏は途中の東京駅で遊んでいこうと思い、父には適当な電車に乗るから迎えに出なくていいよと連絡していたのだった。

 その朝、私の家に電話した父は、留守だったのでもう出発したと考え、家から東京駅、新幹線で岡山、在来線に乗り換えて倉敷駅と到着時間を計算して駅にきたらしい。2時間は私たちが東京駅でうろうろしていた時間だった。

 「楽しみにしていたんだね」。改札係の人の話によると父は待っている間私たちのことを、あれこれ話してくれたとのこと。携帯電話などない時代、電車が着くたびに降りてくる人々の中から、いまかいまかと私たちをさがす父の姿を思うと申し訳ない気持ちだった。

 しかし父の迎えはこれが最後となった。その年の秋、脳出血で倒れ半身不随となり、その後胃がんを併発して3年後に亡くなった。

 あれから私は何度倉敷駅に降り立ったことだろう。自動改札となった改札口で、あのときの満面の笑みの父の顔と「ようきたな」、うれしそうなその声を今でもはっきりと思い出す。

大野 幸子 72 東京都多摩市

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