PR

ニュース コラム

【日曜に書く】戦後初のベストセラー『日米会話手帳』に学ぶ 論説委員・山上直子

 先日、リタイアした先輩から思いがけず手紙が届いた。封を切ると、中に少し色あせた小さな冊子が入っている。

 表紙には「日米会話手帳」、裏には「科学教材社刊 定価八十銭」とあった。

 ご存じだろうか。昭和20年の終戦からわずか1カ月で発売され、発行部数なんと360万部。戦後初のベストセラーとなった伝説の出版物だ。

 「買っただけで満足してしまって。だからきれいでしょう」と先輩は電話で大笑い。ありがたく頂戴し、改めてその背景を考えた。

昭和20年の英会話本

 話には聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。測ってみると、サイズは9センチ×12・5センチほど。わずか32ページで厚みはほとんどなく、紙も薄くて上質とは言い難い。

 中身を少し紹介しよう。表紙を開くと、目次には「I日常会話、II買物、III道を訊(たず)ねる」とある。1ページ目の日常会話はこの言葉から。

 〈有難う Arigato

  Thank you!(サンキュー)〉

 日本語と英語が対で表記され、日本語にはローマ字で、英語にはカタカナで音(おん)が添えられている。重要なのはやはり英語の発音だが、これがなかなか秀逸でおもしろい。例えばこれ。

 〈ウェヤ リ ザ ポーストフィス〉

 文字を見るだけではさっぱりだが、声に出して読めばたちどころにわかる。

 〈郵便局はどこですか

  Where is the post-office?〉

 手がけたのは、茨城県出身で書店員をへて出版社・誠文堂(現誠文堂新光社、東京)を創業した小川菊松(1888~1962年)である。当時のいきさつを記した自伝的著書の復刻版「出版興亡五十年」(平成4年)があった。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ