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【ソロモンの頭巾】長辻象平 シーボルト再見 取り戻せ、江戸の淡水魚の豊かさ

 シーボルトらが日本で収集した淡水魚で、新種として記載(登録)されたものは38種に上る。

 現在の国産淡水魚は約500種なので、約8%がシーボルトの標本を基に、分類学上の戸籍が確定したというわけだ。

 シーボルトの居住は長崎の出島に限られていたが、文政9(1826)年には11代将軍徳川家斉への拝謁で、江戸まで旅をする機会を得ている。

 先の38種のうちには、この旅の途次の琵琶湖・淀川水系で採取したゲンゴロウブナやハス、アユモドキなどが含まれる。

 ◆魚育む水田と水路

 シーボルトは長崎と江戸の間での見聞を『江戸参府紀行』と名付けられた日記に詳しく記録している。  濃尾平野の稲田では野鳥のトキを見た。江戸期の日本の水田には魚鳥や貝をはじめとする多様性に富んだ生態系があったのだ。

 「水田は水圏と陸圏の両性質を備えているので生物群集が豊かになります」と細谷さんは語る。

 その豊かさが現在の日本では面影さえ消えかけている。主な原因は水田農業の生産効率化にあるようだ。

 例えば3面コンクリートの用水路。そこで生物は生きていけない。だが、素掘りの土水路に戻すと今度は別の困難が台頭する。泥揚げや水草刈りに必要な働き手の不足で、水田そのものに耕作放棄の拍車がかかる事態を招く。

 淡水魚の生育と回遊が可能になる「魚類学的水循環」は、水田と水路のネットワークがあって成立するものだ。

 「これからの農業政策には淡水魚を貴重な環境資産とする視点が欠かせません」と細谷さん。

 絶滅の危険度が高い国内の汽水・淡水魚は71種。そのうち、ミヤコタナゴ、ゼニタナゴ、ヒナモロコ、シナイモツゴなど23種が水田周辺部の仲間なのだ。

 ◆タイムカプセルだ

 これらの危惧種の保全に当たっては、分類学が重要になる。

 「例えば、ムサシトミヨというトゲウオの一種は絶滅に瀕(ひん)しているにもかかわらず、学名が確定していないために、国内希少野生動植物種の候補にはなり得ません。その結果、環境省が進める保護増殖事業の対象外となっているのです」

 この厳密さは、国際自然保護連合(IUCN)においても同様だ。学名は世界中で共通する生物の識別コードであるからだ。

 学名を決める際に使われた標本は模式標本と呼ばれ、永久保存される決まりになっている。

 シーボルトの手を経たアユやニホンウナギなどの模式標本は現在、ナチュラリスの魚類標本収蔵庫で管理されている。これらの標本は、江戸後期の自然の実相を伝えるタイムカプセルとしての性格も持っている。

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